第83話・エル。動く

「分かりました。伯爵様。体調不良を理由に、数日ここで泊まることは可能でしょうか?」


「そのくらいならば問題ないが」


「まずは王都の最新情報を集めます。穏便に爵位と領地を返納出来るならばよし。ダメならば何らかの策が必要となりますから」


 部屋に戻るとオレと伯爵様は先程の話をエル達にして、今後の方針を決めることにしたが、エルは最新の王都の情報収集を必要と判断していた。


 あまり期待してないが、すでに王位継承問題に決着が着いてる可能性も無くはないし、辞めると言って素直に辞めさせてくれるとは思えないしね。


「もし王位継承問題が解決していたら、貴族として残るお考えはありますか?」


「ないの。もうウンザリじゃ。血縁者は一応おるでの。その場合でも穏便に血縁者の誰かに、爵位と領地を継承させればよかろう」


「ご領地の家臣の方にこの件は?」


「家令には伝えておる」


「では今晩のうちにご領地に戻り、家中のみなさんと話をして移住の準備を密かに始めましょう。朝までに戻ればいいですから」


「今晩のうちに?」


「はい。すぐにクリスティーナ様も連れて行きましょう」


 こういう時に一番役に立つのは間違いなくエルだ。


 情報収集と同時に移住の準備もするらしい。


 伯爵様も流石に今晩のうち領地に戻り話をすると言うと、理解できない顔をしたが。


 伯爵様の領地は聞いた話だと飛行機ですぐなんだよね。





「何これ?」


「説明は後で。乗ってください」


 オレ達は外に飲みに行くと宿屋の人に告げて宿を出ると、人気のない町外れにて呼び寄せた小型飛行機に乗り込む。


 伯爵様にクリスティーナ様達は、その見たことがない形に理解できない様子だったが、オレ達を乗せた飛行機は音もなく飛び立ち伯爵様の領地へと向かう。


「これ空中船なの?」


「はい。スピードは違いますが」


 ギャラクシー・オブ・プラネットではお馴染みの、反重力エンジンを搭載した飛行機は伯爵様の領地まで十分ほどだ。


 室内の重力もコントロールされていて、加速時にも一切のGはかからなく、夜中なのでクリスティーナ様は速さに気付いてないみたいだけどね。


「……うそ」


「私達は夢でも見てるのでしょうか?」


 散々苦労した旅路を僅か十分ほどで戻ったクリスティーナ様とメアリーさんは、まるで狸か狐にでも化かされたのかと言いたげな顔をしてる。


 日本人がUFOにでも乗せられたら、同じような顔をするのかもしれないと考えたら少し可笑しかったけど。


「さあ、お屋敷のみなさんと話して移住の支度をお願いします」


 決断したら迷わないのがエルの凄いところだろう。


 なんか、気分は何時だったかレンタルで借りて見た昔の夜逃げを手伝うドラマみたいだけど。


「ジュリア頼むよ」


「あいよ。任せとくれ」


 そしてジュリアには伯爵様の屋敷の近辺に、密偵が居ないか調べて貰い居たら対処を頼む。


 伯爵様は第二王子が何をするか分からないと言っていたし、多分ここも見張られているはずだ。


 ゲスな連中の考えることならオレにも分かる。


 久々のまともな任務にジュリアは、ニヤリと笑みを浮かべて屋敷の外に出て行った。


 さあ、夜逃げ屋さん頑張るかね。


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