第56話・村の防衛戦その三

「手伝います」


「おう。じゃあそっち頼むわ」


 エルと分かれたオレは特にやれることもないので村の男衆と兵士達が穴を掘ってる場所に来て穴掘りを手伝う。


 村の民家は十軒ほどで村の周りには野菜や麦畑があり、柵は畑の前と村と畑の間にあるがオーガを止められる物ではないだろう。


 男衆は村と畑の間の柵の前に一メートルもない深さの穴を掘ってる。


 効果の程は村人達も理解してるようだが出来る範囲でやれることは他には無いのだろう。


 伯爵様と兵の一部は畑の前にある柵を壊してオーガの侵入を少しでも遅らせるべく拒馬のような物を作り、村の入り口や柵の後ろに配置している。


 町から討伐隊が来るまで村には来ないで欲しいと祈るように穴を掘ってるであろう人達だが、その表情は不思議と絶望や諦めはない。


「兄ちゃん飯だぜ」


 どのくらい掘っただろうか。


 あまり会話もないまま掘り続けていて辺りは完全に日が暮れて月明かりになっている。


 小さな村とはいえ穴を掘るのはそう簡単ではなく、オーガが発見された森の方角に面した場所はなんとか掘れたというところか。


 オレの場合は生体強化されてるため力も並の人間よりはあるので、他の村人の何倍も早いスピードで穴を掘ったと言える。


 それに元々農家だったので意外に慣れた作業だったことも捗った理由だろう。


「兄ちゃん。食ったら休んでくれや。今日初めて来た村の為にありがとよ」


 時間はすでに日付が変わる頃かもしれない。


 オレは作業をしていた村の男衆と兵士達と共に夜食を貰っていた。


 昨日食べたラビィの肉と思わしき串焼きと麦と野菜の雑炊だ。


 夜も更けると夜風が冷たく夕食もまだだったせいか空腹に染み渡るような食事だった。




「ご苦労様です。お茶を入れますね」


 夜食は流石に作業を終わりにして交代で監視しつつ休憩するらしくオレは宿屋に戻ったが、宿屋の食堂では伯爵様と騎士にエルとジュリアがオーガが現れるまで待機していてケティは村にあった薬草や魔石を使い黙々と回復薬を作っていた。


「これは……、誘い込むのですか?」


「オーガが賢いと言うてもたかが知れてるからのう。来るなら正面から来てくれればこちらも迎撃しやすい。鳴子と言ったかエル殿が面白いものを教えてくれてのう」


 テーブルの上には羊皮紙があり村の図面と柵や堀などの配置があるが、明らかに中央の村の入り口の方が手薄であり誘い込むような防衛陣になっている。


 なるべく畑を荒らさせたくないとの考えもあるのだろうが村の入り口付近まで誘い込みオーガを倒す作戦らしい。


 ただ伯爵様の作戦にエルが少し口を挟んだらしく鳴子をあちこちに配置したようだ。


 鳴子とは縄やロープを張りそこに木の板などを重なるようにくくりつけて音がなるようにした時代劇などである物だろう。


 後は村の男衆と兵士で村の入り口の方に誘い込む作戦のようだった。



「来たか!」


 そして時間は過ぎ深夜2時を回った頃だろうか。


 静かな村に鳴子の乾いた音が鳴り響き伯爵様を筆頭に兵士や村の男衆にオレ達もみんな家々から飛び出して予定の配置に着き侵入者を待つ。



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