第48話・ケティ先生治療する

 村長の家の横には昼間見た貴族らしき馬車がありケティの表情が僅かに曇った。


 ただ厄介な貴族だったらどうしようと考えるも、性格的にアレックスほど神経質でもないのでなんとかなるだろうとあまり気にする気もない。


 それに医療技術には自信があるのだ。


「夜分に突然すまぬな魔法使い殿。孫が昼くらいから体調が悪いと訴えてのう。持参した薬は飲ませたのだがあまり良くないのだ」


 病人は50代後半の年配貴族の孫のようだった。


 年配貴族はあえて名なども名乗らず若いケティにも丁寧に対応していてケティの表情が少し緩む。


「お腹は下した?」


「うむ。今朝から調子が悪いようだったのう」


 医療型アンドロイドのケティは単身でもかなりの科学的診察と検査が可能で孫である少女の熱を計ったりと診察を始める。


 無愛想なケティに年配貴族の配下の騎士が少し眉をひそめるが年配貴族の方はあまり気にした様子もなく見守っていた。


 村には教会はあるが田舎の小さな教会故にあいにく神父は魔法など使えず、回復魔法の使い手は隣の村の先にある町まで行かねば居ない。


 最悪の場合は配下の騎士が町まで回復魔法の使い手を迎えに行かねばならないが、夜に村から出るのは騎士といえど命懸けだし何より往復三日はかかる距離なだけにそれでは万が一の場合は間に合わぬ可能性が高いのだ。


「おお! 無詠唱か! その若さでやるのう」


「お腹を冷した風邪です。このままでも朝には良くなるから問題ない。朝には消化のいい物を食べさせれば大丈夫」


 ただ少女の病状はごく普通の風邪であり年配貴族の飲ませた薬が効いてきているのであまり心配する状態ではなく、ある程度待てば大丈夫だったらしい。


 いかに回復魔法や即効性のある回復薬などでも下したお腹にある物を出さねば良くならない場合があるし、そもそも年配貴族が与えた薬はいわゆる原始的な薬の類いで魔法的効果のないただの薬であるため効果が出るまで時間が掛かるのは仕方なかった。


 ケティは一応ナノマシン治療により熱を下げてやると少女の表情は良くなり年配貴族や配下の騎士は喜びの声をあげる。


「もし容態が変わったら呼んで」


「本当に助かった。感謝する」


 念のためにケティ特製の回復薬を一本置いて少女が目を覚ましたら飲ませるように告げるとケティは素っ気ない態度で帰るが、最後まで無愛想で報酬の話すらしないまま帰るあっさりとしたケティに年配貴族と配下の騎士は少し顔を見合わせて苦笑いを浮かべるも旅先で無償で治療してくれたケティに敬意を払うのを忘れなかった。


 ケティは知らないが貴族を相手にすると人によっては法外な報酬を要求したり、または関わりたくないからと無理だと治療を拒否する人も稀にいる。


 医療など確立してないこの惑星では仮に患者が悪化したり万が一亡くなりでもしたら貴族に恨まれる可能性があり、それを恐れて旅先での治療には慎重な薬師や回復魔法の使い手もまた居るのだ。


 それと魔法使いや薬師に限らずこの世界では貴族が支配階級ではあるが、誰もがみんな貴族になりたいわけでも貴族に仕えたい訳でもない。


  堅苦しい宮仕えが嫌な者も多く特に自分の力で生きていける者が貴族に仕えるのは、ある程度年齢を重ねて落ち着きたい者や子や孫が出来て平和な生活を望む者などが多い。


  ケティのような見た目が十代半ばで実力があれば貴族を避けても別に驚きなどなく、ある意味自然なことだとも言える。


 まあ年配貴族は実はかなりの人物なので地位に傲ることなどなく、どのような形でも問題にはしないのだろうが。



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