第49話・ロイスブルッグ伯爵

「お客様。ロイスブルッグ伯爵様から昨夜の礼だと、これを預かっております」


 翌朝宿の食堂で朝食を食べようと一階に降りたオレ達は、宿のおかみさんから予期せぬものを渡された。


「あれお客様知らなかったんですか? ロイスブルッグ伯爵様は先の将軍職を勤めた御方で十何年か昔に北方で起きた魔物の大暴走を食い止めた国の英雄ですよ」


 どうやらケティの治療の礼らしいがケティ自身はたいしたことはない風邪だったと言うだけだったもんだから、相手が貴族であることや礼金が金貨十枚も入っていて少し驚いちゃったよ。


 だがそれ以上に驚いたのは宿のおかみさんがその貴族が国の英雄だと言ったことだろう。


「名前は聞かなかった。昨日の馬車の人」


 ケティもなかなか大物だよね。


 貴族相手に名前も聞かず治療して、たいしたことしてないからって手ぶらで帰って来たんだから。




 ヴェネーゼを出て四日目のこの日は天気もよく地面もようやく渇いてぬかるみがなくなったので気持ちがいい出発だった。


 ロボとブランカは相変わらず籠の中に居てミルクと眠ることを繰り返している。


 昨夜は宿に連れていったが深夜になり少し冷えてきたのでエルとケティが一匹ずつ暖めながら朝を迎えた。


 今後は気温調整が可能な馬車から出す時は気を付けねばなるまい。


「司令。前方で何かあったようです」


「伯爵様の馬車か。まさか襲われたか?」


「いえどうやら襲われていた馬車を助けたようなのですが」


 他の人と違い安全で少し退屈な旅にロボとブランカはちょうどいい刺激になっていた。


 特に退屈さを訴えていたジュリアが二匹を保護してから何かと世話を焼き退屈を訴えなくなったのは少し意外だったが。


 そんなオレ達だが村を出て一時間半ほどすると前方で何台かの馬車が止まっていて、中には昨日ケティが治療した子供連れの伯爵様の馬車まである。


 エルはオレ達の上空に常に飛ばしている偵察機で一連の事態を見ていたらしいが、どうやら襲われた馬車を伯爵様が助けたらしい。


 相手は例によって盗賊だという。


「怪我人は?」


「おお! 昨日の魔法使い殿か。ワシらは大丈夫じゃが商人の護衛が一人大怪我をしておる。助けてやってはくれまいか」


「出来ることはする」


 馬車が止まっているところに追い付いたオレ達も様子見を兼ねて馬車を止めて姿を見せると、噂の英雄と言われる伯爵様がケティの姿に喜びの表情を見せて怪我人の治療を頼んで来た。


 しかも自らとは関係ない商人の護衛に対してである。


 プライドだけの貴族には、なかなか出来ることではないだろう。


「魔法使い殿の連れか?」


「はい。見習いの商人をしてます」


「昨夜はすまなかったな。おかげで孫は元気になった」


「いえ。それは何よりです」


 伯爵様の部下達は生き残った盗賊の尋問や一部破壊された商人の馬車の修理を手伝っていて、オレとエルとジュリアは特にやることもないのでそれを眺めていたがそんなオレ達に伯爵様の方から声を掛けられた。


 だいぶ律儀な人なのだろう。


 わざわざオレ達にまで礼を口にした。


「旦那様。やはり近くに隠れ家があるようです」


「うむ。このままにしてはおけんな」


「しかし人が足りません。万が一旦那様になにかあれば……」


「ワシは構わん。老い先短い年寄りが今更盗賊ごときに死を恐れてどうする」


「ですが……」


「なにお前とフレックスと三人なら何とかなるじゃろう」


 驚いたのはそこからだった。


 この伯爵様どうも数人の部下と一緒に盗賊のアジトを殲滅する気らしい。


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