ファンタジー世界に宇宙要塞でやって来ました
横蛍
第1話・ゲームの終焉
「司令。お茶が入りました」
「少し休憩するか」
見渡す限りの一面の畑には収穫時を迎えたサツマイモが植えられている。
オレは今朝から一人で収穫をしているが丁度そろそろ休もうかと考えていた頃に、温かい日本茶と大福餅二個を丸いお盆に載せた美女が現れた。
すらりとした脚に出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでる金髪爆乳の美女は、可愛らしい顔立ちの癒し系の柔らかな雰囲気を持つ自慢の有機アンドロイドだ。
女性用の少し露出度の高い白い軍服を身に纏っている彼女の名はエルという。
現在オレがプレイしているゲームであるギャラクシー・オブ・プラネットというSF系VRMMOにおけるオレの副官とも相棒とも言える存在になる。
ここは宇宙開拓と戦争のシミュレーションRPGとなるギャラクシー・オブ・プラネットというゲームの中の仮想世界であり、オレの拠点となるギャラクシー・オブ・プラネット最大規模の建造物の移動式宇宙要塞シルバーンの内部にある人工農園のほんの一角だ。
移動式宇宙要塞シルバーンは月と同程度の大きさの球状要塞になる。
内部には大型艦が五百隻収容可能な宇宙港を筆頭に、数多の艦艇建造ドックやギャラクシー・オブ・プラネットに存在する、あらゆる兵器や艦艇に食料から日常品まで自動製造出来る各種工場。
そして憩いの場となる娯楽施設まで自由に作れるギャラクシー・オブ・プラネット最大最強の要塞となる。
ただこの要塞は通常クランと呼ばれる複数でプレイヤーが集まるチームで建造し運用されるのが一般的で、オレのように個人で所有するプレイヤーは数えるほどしか居ないだろう。
「今日中に収穫終わるかな」
「無理だと思いますが。それより司令は本日の大規模戦闘に参加されないので?」
「うん。最後くらいはゆっくりしようかなって。みんなにも休暇を楽しんで、もらいたいからね」
ただSF物であるギャラクシー・オブ・プラネットにおいて、普通に畑なんか作っているのは多分オレくらいだろう。
基本的に食料は自動生産工場にて計画的に生産出来るんだ。
まあそれも今日で終わりだ。
技術の発達が目まぐるしい時代に、十五年にも渡りサービスを続けてきたギャラクシー・オブ・プラネットも、時代の流れには逆らえずこの日で終わりとなる。
エルを筆頭に120体まで増やした、女性型アンドロイドともお別れが迫っていた。
最終日となるこの日は敵味方関係なくプレイヤーが入り乱れての最終戦争のイベントをしていたが、オレは参加する気も起きずに収穫時となったサツマイモを収穫している。
「司令。きっとまたいい世界と巡り会えますよ」
彼女達アンドロイドも、ここが仮想空間でこの日で消えてなくなることを理解している。
特にエルはオレが最初に作り何度もバージョンアップしてきた相棒だけに、AIは人間より進歩してるのではと思う時がある。
故にエルや他のアンドロイド達は、この日もいつもの休日と同じように要塞シルバーン内部で余暇を楽しみ、最後くらいはオレとエルの二人だけにしてくれてるんだと思う。
「いや、もう多分別の世界には行かないかな」
まるで本当に世界が終わるような、そんな心境をオレは感じている。
VRの仮想空間がリアルになればなるほど仮想空間にハマる人は増えて、リアルよりも仮想空間での時間を大切にするようになると、問題提起されているがまさにオレはその典型的なタイプだった。
「司令。残り三十秒です。長いことありがとうございました。私達はずっと……ずっと……」
最後の一日はあっという間に過ぎていた。
結局サツマイモは半分も収穫出来ずに、120体のアンドロイド達とオレの夢が詰まったギャラクシー・オブ・プラネットに別れを告げる時間がやって来る。
エルは泣いていた。
仮想空間のアンドロイドにもかかわらず。
いつの間にか集まっている他の119体のアンドロイド達もまた泣いている。
後悔はあるし悲しいが終わることを恨んではいない。
「ずっと……」
何かを言いかけたエルの言葉を最後まで聞けぬまま、オレはログアウトする時のようにこの愛すべき世界から意識を失った。
ありがとう。の一言が最後に言えなかったことを後悔しながら。
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