去年の君は、来年の私が嫌い
橘 六六六
過去へと戻った私
第1話 雨の中の過去
―――すっごい前向きな子だって死にたい時ぐらい有るよ。
例えばそれはすっごい下らない事が引き金となったりする事も有って、私の場合は今朝お母さんが寝坊して朝食を作り忘れた事だった。
―――中学校3年の夏休み初日。
鋭い夏の陽射しを乱反射する海辺、遠くに見える白く輝く入道雲、色濃い青空の下で蝉が五月蝿く、焼け付く様な太陽の下で学校の夏服のセーラー服から出ている小麦色に焼けた腕や、脚や首は汗ばんでいた。
私はそんな頃に、私の通う中学校の隣に在る高さ21メートルの時計塔から飛び降りた。地面はコンクリートで、そんな高さから飛び降りた私は...
―――勿論、死んだと思う。
しかし今、雨に濡れながら私の通う『
「
「えっ、あっ、
「あんたなん言よんかい。はよ教室行くよ。」
会話は噛み合わないが、この少しくせっ毛のポニーテールに優しい目と赤い縁の眼鏡。そして、地元の方言の混じった柔らかい口調で私をいつも諭す感じは間違い無く小さい頃からの幼なじみの瑞穂だ。そして瑞穂は雨に濡れた私の腕を掴み自分の傘の中へと誘い込むと、私に小言を言い始めた。
「巴ちゃんは、ホント走る事しか出来ない子なんやから。」
いつも人を気遣った発言を心掛けている瑞穂の口から、今の私に向かってそんな心無い発言が向けられた事に私は全身の血が頭に集った。そして思わず瑞穂に向けて、激しく地面を叩く雨の音を引き裂く様に怒鳴った。
「今のこんな状態の私に何でそんな事言うのよ!もう私が走れないの知ってるやろ!」
怒鳴られた瑞穂は悪びれた顔もせずに、私の顔をじろじろと眉間に皺を寄せながら眺めると
「何を言よんの?巴ちゃんが走れんはずなかろ?」
そんな事を言う瑞穂に私は戸惑いながら
「ほら!先月、事故に遭って右足を複雑骨折して靭帯も切れてもう走れんって解ってるやろ?見てみない!」
私がそう言いながら、自分の右足を指差すと瑞穂は困った顔をして
「見るのは巴ちゃんの方や。何処も怪我しとらんし、そんな話し初めて聞いたよ。」
「えっ?何それ?」
私は瑞穂に言われて自分の右足を見ると確かに怪我も無いし傷一つ無い、強く踏み込んでも痛みも無いし、その場でジャンプしても何の違和感も無く私は夢かと頬をつねるが頬は痛かった。そんな私を見て瑞穂は、私の腕を積み引っ張り歩きながら
「巴ちゃんは疲れているんや。練習のし過ぎなんや。先生には私から言っておくから、巴ちゃんは保健室で休みない。」
そう言うと、そのまま中学校の校舎入り口から入って右手に在る保健室へと連れて行かれベッドへ寝かされた。
「あんな雨に濡れたからきっと熱があるんや。巴ちゃんはそこで暫く寝とき。」
瑞穂はそう言うと棚からバスタオルを取り出して私の頭に投げると、そのまま保健室から出ていった。私はバスタオルで頭を拭きながら、ショートカットだから乾くのが早いだろうと適当に拭いて籠の中へ投げて横になり、とりあえず目をやった壁を見た。するとそこには去年のカレンダーが4月で貼られていた。
「7月なんに何でこんな去年の古いカレンダー貼っているんやろ? 」
そう呟いて、私は保健室のベッドの中で記憶を辿った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます