ミッションコンプリート

カプセル・トーイ

第1話

ちょっと待って!」


キッカケは覚えていない。ただ誰かと何か言い争いになって、家から飛び出した、その誰かを追いかけて思い切り玄関のドアを開けた。


その瞬間、記憶は更にあいまいになって私はボンヤリと家の前の細い道路に立ち尽くしていた。


そこには見慣れた集合住宅が建ち並んでいる。


「えっ?私なんで家から飛び出ちゃったんだろう」

外は冬の始まりか秋の終わりの様な重い灰色の雲が低く留まっている。気がつくと左手にはスマホ一つ。薄いトレーナーにジーパン、足元は素足にクロックスという出立ち。


「寒っ!」

余りの寒さに我に返り、震えながら慌てて家に飛び込んだ。


「あれっ?ここ私ん家じゃない。ドアの感じとか同じなのに。」

「あっ!ごめんなさい!間違えました!」


私たち家族以外の誰かが住んでいるであろう家の玄関のドアを勢いよく開けて外に飛び出た。


確かに見覚えのある景色。でも何か違う…

確かに家があったであろう場所に家がない。


「えっ!家がない?!」ってか、家が建っていた場所はハッキリ分かるのに間取りや玄関周りの事、家の中の壁の色、リビングのテーブルの色や形なんかが朧げになっていく。

それは思い出そうとすればするほど、頭の中の映像がぼやけて記憶はどんどん曖昧になっていく。


まるで剥がれて道路に落ちたポスターが雨に濡れて印刷が溶けて見えなくなっていくように…


「そうだスマホ。とりあえず七海に電話してみよう」

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