第17話

 リチャード殿下はサンドイッチを美味いと、結構なボリュームを2人でたいらげた。


「美味しかった、ごちそうさま」

「喜んでいただいて、嬉しいです」


 昼食後、街出発して馬車に揺られていた。この馬車の揺れは電車と似ている、お腹も程よく膨れるとやってくるのは睡魔だ。殿下は本を読みながら反対側で目を瞑って寝ているようだ。


 私もふかふかお布団には抗えず瞼を閉じた。幸せお布団……前世で味わえなかった分、今世ではいっぱい噛み締めるからね。


 どれくらい経ったのか、誰かが『起きてください』と、馬車の外から呼んでいる。もう少しふかふかお布団と、この温かさを感じていたい。


(ん? これはお布団の温かさじゃない?) 


 目を覚ますと、間近くにリチャード殿下の寝顔があった。私は殿下を抱き枕にして寝ていたのだ。


「きゃっ!」 


「ん? 起きたのかミタリア? ……ん、すまん。余りにも気持ちよさそうに寝てるから……つい寝顔と布団に引き寄せられて隣に寝転んだら寝ちまった……」


 ふわぁっと――リチャード殿下は人も移す欠伸をしながら起き上がった。殿下も熟睡していたらしく寝癖と、服にシワができていた。


「リチャード様、後ろの髪のここが跳ねてますよ」

「んっ、ミタリアが直してくれる?」


 まだ起き抜けのリチャード殿下から、髪に触れてもいい許可をもらった。私は慣れていない人に、触られるのが嫌いだろうと思っていた。

 どうしてかというと、婚約者候補の令嬢たちがリチャード殿下に触れようとしたとき、一瞬だけよる眉間のシワと尻尾が揺れていた。


 だから極力、近付かないように離れていたけど。

 離れても、リチャード殿下から近寄り触れてくる『直しますよ』っと言って、彼の柔らかな髪に触れた。


「ミタリアの手は優しいな」

「そ、そんなことないですわ」


 トクントクン鼓動がうるさいくらいに鳴り響く……どんなに否定しても無理だ。私は推しのリチャード殿下を好きになってしまった。


 最後に泣く事になっても、終わりまで……あなたの側に、


「……いてもいいのかな?」


「ミタリア?」


 や、やばっ、今、声に出て、リチャード殿下に聞こえた。……だって、探るような青い瞳が私を見つめてくる。


(……ここは誤魔化さないと)


「ふかふかお布団に寝てもいいかなぁって、思ったんですわ」


「それは無理だな。馬車はとっくに母上の屋敷に到着しているし。リルが首を長くして、俺たちが馬車から出てくるのを外で待っている」


「嘘っ、リチャード様、だったら早く行かないといけませんわ」


「いや、ミタリアの寝癖も直さないと……ほら、自分の髪飾りを持って」


 サワッとリチャード殿下の長い指が私の髪に触れた。ゾクゾク……うひゃぁ――あ? これはダメなやつだ……すごく気持ちいい、もっと撫でてほしい。


 グルル……喉が鳴った。


「……ひゃっ? リチャード殿下、それは寝癖直しではありませんわ(耳をサワサワするやめてぇ……)」


「なんだ、気持ちいいのかミタリア」


「なので、やめてください……きゃっ、リチャード様? そ、そこは尻尾の付け根です……もう、エッチ!」


「クク、可愛い。気持ちよくて鳴る喉、真っ赤な頬と立ち上がった尻尾……これは以上は視覚的にやばいな」


 なんて、ことを言うの?

 エッチ、リチャード殿下、スケベ――!


「だったら、おやめてください」


「やめて欲しかったら……ミタリア、俺から離れようなどと考えるなよ」

 

「え? なんで?」


 リチャード殿下が近付き、頬にスリスリ自分の頬を擦り寄せるのではなく、ガブッと私の頬を甘噛みした。

 逃げようとしても、殿下は私の体をがっちり捕まえてガブガブ、ガブガブ甘噛みした。


「……クッ」


 ――その途端、お腹のアザが熱をもつ。


(な、何?)


 一気にブワッと、私の尻尾がパンパンに膨らんだ。

 甘噛みをやめて頬から離れると『そう怖がるなよ』と、髪を撫でて髪飾りをつけてくれた。


「ミタリアにこれだけは言っておく、俺はお気に入りを逃がさない、覚悟しろ」


 リチャード殿下の鋭い瞳が私を見た。


「…………」


(その言葉は嬉しい――でも違う、私がではなく……あなたが離れていくんだよ。とは言えないけど)


 ジワジワ熱くなるお腹のアザと。リチャード殿下の鋭い瞳から逃げたくなる。


 怖気付いて逃げようとした、私に彼の手が伸びた時――コンコンと馬車の扉が叩かれる。


「いい加減に起きてください。リチャード様、ミタリア様?」


 フッと鋭い瞳から、いつもの優しい瞳に変わり。


「等々、リルが騒ぎ出したな……さてミタリア、母上が待ってる行こうか」


「……は、はい」


 馬車の出入り口を開き、先に降りてリチャード殿下は手を差し伸べて、私をエスコートしてくれた。


 

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