第9話

 リチャード殿下はいいだけ撫でたあと、ソファーに座りながら寝落ちした。すーすーと頭上で寝息が聞こえる。のだけど、このまま寝ちゃったら風邪を引くんじゃない?


 ――フフフ、私の必殺技"猫のまま扉開け"で部屋から繋がる寝室の扉を開けた。そして、毛布だけ引っ張ってくる事に成功した。


(これで私が猫体温で温めれば……風邪を引かないかな? リチャード殿下の側で丸まった。まただ、ムズムズ、くすぐったいよりもお腹のアザの部分がムズムズする)


 お風呂でタオルで擦っても、薬を塗っても消えなかったアザ。今、そこがむずむずする、リチャード殿下もさっきから時折、私と同じ所をさすりながら寝ながらかいていた。


(殿下もむず痒いのかな? まさか、私にノミ?)


 お風呂は毎日入っているし、このムズムズなんなのぉ――と、悩んでいるうちに私も寝てしまった。


 


 ♱♱♱


 


 コンコン、コンコン扉を叩く音で目覚めた。

 すぐ近くには毛布に包まり、ソファーでぐっすり眠るリチャード殿下がいる。


 ――やっぱり、お疲れだったんじゃない。


「すみません、リチャード様?」


 この声は側近リルだ。3時過ぎから始まる執務開始の時間を過ぎても、殿下が現れないから呼びに来たんだ。

 いま何時だと時計を見ると4時を回っていた。


(私が王城に来たのは、午後1時過ぎだったわ)


 リチャード殿下と少し会話をして、その後、寝落ちして、ゆうに3時間くらいはぐっすり寝ていたみたい。


 コンコン、コンコンと扉を叩く音に、殿下の耳は動いているから音は聞こえているはず。しかしリチャード殿下は起きたくないのか、眉をひそめるだけで目を覚まさない。


 疲れているようだから、このまま殿下を寝かしてあげたいけど、執務は大切なので起こす事にした。


「リチャード殿下、起きてください。側近リル様が迎えに来ていますよ」


「ん? リルか? リル、あと1時間くらい待てないのか?」


 この声は扉の向こうにいる側近リルにも聞こえたのだろう。『私だって、リチャード様を起こしたくないですよ』と、声が聞こえた。彼もまた忙しいリチャード殿下を寝かせてあげたい。

 しかし、たまっている執務があり扉の向こうで困っているようだ。


「殿下、リチャード殿下、もう4時過ぎです。執務にお戻りください」


「ああ? 4時過ぎ?……戻る時間を過ぎているな。じゃー、ミタリア、お前も執務室に来い」


「それは無理です」

「じゃー起きない」


 と、私を抱っこした。この、わがまま殿下に起きてくれるのならと冗談半分で。


「分かりました。リチャード殿下が起きていただけるのなら、考えますわ」


「ミタリア、その言葉、嘘じゃないよな」


(えっ?)


 その、私の言葉を待っていたかのように、リチャード殿下は直ぐに目を覚ました。


「た、狸寝入り!(狼だけど)」

「いいや、起きたのはリルが来てからだ」


 ニンマリ笑って、リチャード殿下は脱いだジャケットに、私をさっと包み脇に抱えて部屋を出た。


「え、このまま?」

「約束したもんな、ミタリアも執務室に来るんだろ?」


 逃げ出そうにも、ガッチリ抱えられてしまい身動きが取れなかった。




♱♱♱




 部屋の外で殿下を待ってた側近リル――彼はリチャード殿下が持つ、ジャケットをチラチラ見ていたる。


(まさか、ジャケットの中に私がいるって分かってる?)


「リル、あとは1人でやるから、上がっていいぞ」

「リチャード様?」


「俺がいない間、ご苦労さま。また明日頼むな」


 側近リルの言葉を遮る殿下に、リルは『はい』しか言えず、頭をさげて下がっていった。

 

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