第7話

 リチャード殿下の寝室でお昼過ぎの、執務の時間まで一緒に過した。彼はいいだけ黒猫の私をもふり"また明日も来いよ"と寝室を後にした。


(ふうっ、疲れたぁ……でも、今日の推しも素敵だった)


 ――もしかして、リチャード殿下は黒猫の私を気に入ったのかも。猫って触っても、いるだけで癒されるし。それだったら、疲れた彼を癒せたのかも……フフ、顔がニヤける。


「さてと、私も屋敷に帰ろう」


 いつまでも、ここにいてはリチャード殿下の迷惑になる、着替えようと獣化を解いて下着を身につけたとき。

 ガチャッと扉が開き『言い忘れた、ミタリア』と、彼が寝室に戻ってきた。寝室には私の悲鳴にならない悲鳴と、一瞬で顔を真っ赤にしたリチャード殿下。


「ご、ごめん……ミタリアの、その、ドレスと髪飾りが似合っていたと言いたかった。……き、気を付けて帰ってくれ」


 口早に、それだけ言うと彼は出ていった。


「え、ピンクのドレスと髪飾りがに合っていた?」


 それを言いに戻ってきたの?

 不意をつかれたけど……嬉しい。




 ♱♱♱

 

 


 王城から帰り夕食まで、ポーっと今日の出来事を思い出していた。下着をみられたのは恥ずかしいけど……リチャード殿下に見られた下着が、可愛いデザインでよかったと、ベッドで本を読みながらまったり部屋にいた。


 コンコンとノックされ返事を返すと、お母様が部屋に手のひらサイズの箱と、手紙を持ってやってきた。


「ミタリア、リチャード殿下から贈り物が届いたわよ」


 王城に登場するようになってから届く、リチャード殿下からの贈り物。お母様から受け取ったのは、いつものバラの花束ではなく手のひらサイズの、細工がされた綺麗な箱だった。

 

 その箱を開けると中に、リチャード殿下とお揃いの銀製の腕輪と『これなら簡単に外れないから、遠慮なく使ってくれ』と、一言リチャード殿下の直筆で書かれた手紙が入っていた。


(リリ、リチャード殿下とお、お、お揃いの腕輪……)


「よかったわね、ミタリア。リチャード殿下にちゃんとお礼の手紙を書くのですよ」


「はい、お母様」

 

 また、リチャード殿下のプレゼントは私だけではなく。


 お父様には高価な万年筆と好きなお酒。お母様には王都で貴婦人達に人気の手鏡、化粧筆などがセットになった化粧ポーチが送られていた。


 プレゼントをいただいた両親は大喜びで、大切に使っている。私も推しからのプレゼントは嬉しい……知らないうちに箱からブレスレットを取り出し、手にしてニマニマしていた。


(はっ! いいえ、優しいのは今だけ……ヒロインに会えばリチャード殿下も変わる。私は悪役令嬢だ、乙女ゲームの中では彼に嫌われていた)


 だけど豪華なプレゼントをもらったのだから、お礼に恋愛の本と狼の絵柄を刺繍したハンカチを作り。手渡しだと恥ずかしいから、お礼の手紙と一緒にリチャード殿下へと送った。

 



♱♱♱


 


 翌日のお昼頃。リチャード殿下の部屋でお茶をしていた。ホッ、今日は寝室じゃないんだとリル様に案内された。自室で到着を待っていたリチャード殿下はいつもの通り、優しく私を向い入れてくれた。


「よく来てくれた、ミタリア嬢」

「ごきげんよう、リチャード殿下」


「お腹空いているだろう? 先に昼食にしよう」

「はい、リチャード殿下」

 

 挨拶が終わると、リチャード殿下に食事などが用意された、テーブルにエスコートされる。

 その昼食の後、片付けられ空いたテーブルに、殿下が一冊の本を取り出し置いた。


 ――その本は私が送った本だった。


「ミタリア、この本と可愛い刺繍入りのハンカチをありがとう、大切にするよ」


「嬉しいですわ。私も素敵なブレスレットをありがとうございました、大切に使います」


 リチャード殿下が"ああ、使ってくれ"と頷き。素敵なリチャード殿下のイケメンスマイルを目にして、目を逸らしてしまった。 

 

 その私の姿に。


「クク、ミタリアは俺の前で大胆な寝相をみせるくせに、今更なに照れてるんだ?」


「だ、大胆な寝相? それはそれ、これはこれです」


「フフ、そうか。そうだ、ミタリアから送られてきた本を読んだよ。俺の好きな話で、不覚にも涙ぐんでしまった……」


「まあ、リチャード殿下に喜んでいただいて、嬉しいですわ」


 たくさんの本を読んでいる殿下も知らないだろうと、古い作品で、私の好きな恋愛の本をプレゼントしたのだ。

 


(嬉しいなぁ、リチャード殿下もその本で泣いたのか……)

 


 あまりの嬉しさに口元を緩ました。

 その私の姿に、リチャード殿下がムッとした表情を浮かべ。


「なんだよ、その顔。俺が泣いたのがおかしいのか?」


「いいえ、私もその本で感動して泣いたので……リチャード殿下も同じだと思い……嬉しかったんです」


 そう伝えると、リチャード殿下は眉をひそめた。


「ミタリアって……か、可愛いな。ちゃんと俺がやった、お揃いのブレスレットもつけてくるし」


 手を伸ばせば、相手の手が掴めるほどの小さなテーブル、リチャード殿下に手を取られ、手の甲にキスされた。

 


 ――お、お、推しの唇がぁぁ!! 私の心はパニック!

 


「リ、リチャード殿下?」

「ミタリア、リチャードでいい」


(えっ、ええ――)


 驚いている間にプチっと、私のブレスレットが外されて、ぽふんと私は獣化した。


(なっ、なにごと?)


「それ、城の錬金術師に作らせた俺にしか外せない腕輪なんだ。――これでミタリアの獣化は俺の手の中にある、2度と勝手に獣化はさせない」


「リチャード殿下……え? かってに獣化させない?」


「ミタリア、リチャードだと言っただろう?」


 近付いた彼は猫の私を抱っこすると、近くのふわふわなソファーに腰を下ろした。

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