間話「真門まもんじゃね?」①





 ――青森某所。





 かつてサタンと魔王の地位をかけて戦った魔界で第二位の実力を持つ呪いの王サマエルこと、農業系動画配信者さまたんは、SNSを見て目を丸くして硬直していた。


「……まもんまもんがトレンド入りしている、だと?」


 何度目を擦っても、トレンドにまもんまもんが入っている。

 恐る恐るスマホをタッチすると、良い笑顔のマモンの画像や、まもんまもんしている動画の切り抜きがSNS上にアップされていた。

 さらに、みんなの呟きがまもんまもんや、マモンを讃える声ばかりだ。


 一瞬、異世界に迷い込んだのかと思った。


「どうりで最近、アクセス数の伸びが好調かと思ったら、やはりまもんまもんか!」


 マモンが青森にやってきてから早一週間。

 毎日動画をアップして、ショート動画も頑張っていた。

 その結果が出て嬉しいと思って良いのか、まもんまもんに乗っ取られつつあるチャンネルを嘆くべきか、サマエルは悩み、頭痛を覚えた。


 魔界産の頭痛薬『八割が憎しみでできている頭痛薬』を水で流し込むと、ふう、とため息を吐く。


「そろそろ私も本気でまもんまもんに対策しなければならないな。いっそ、水着で農業を――っ、駄目だ! なにを考えている! 私はあくまでも農業系動画配信者だ! なによりもアクセス数など気にしていない! 一部の人が見てくれれば、それでいいんだ!」


 不埒なことが脳裏に浮かんだサマエルは必死に頭を振って正気に戻ろうとする。


「一度冷静になろう。……かずたんのコメントを見て癒やされるのだ」


 今まではネット上で、そして先日リアルで会うことができた心優しい誠実な少年のことを思い出し、ほう、と吐息を漏らす。


「よし! 私はまだ戦える!」


 サマエルが奮い立ったその時だった、


「サマエルさま! ただいま帰りました、まもんまもん!」


 グレーのスーツに長靴と軍手、首には水玉の手拭いが巻かれ、肩まで伸びた灰色の髪は後ろに縛られ、頭の上には麦わら帽子が乗っかっている。

 強欲を司る魔界の幹部マモンの農業スタイルだった。


「マモンか。少し遅かったが、なにか畑に問題でもあったのか?」

「まもんまもん。そのようなことはありません。隣のおばあちゃんに捕まってしまいまして、嫁はいるのか、サマエル様との関係はなんだとか、永住する気がるのかなど質問責めでした。まもんまもん!」

「お隣のおばあちゃん……ああ、森田のおばあちゃんか。あの方にはとても世話になった。無礼を働くなよ」

「ふはははは! 魔族の中で最も紳士と謳われたこのマモン! 婦女子に無礼を働くはずがありません! まもんまもん!」

「……いつ最も紳士なんて称号が付いたんだか、まあいい」

「しかし、この村のおばあちゃん、おじいちゃんたちは良い方ですね。差し入れしてくださるのはもちろんまもんまもんですが、人の優しさが擦り切れた心に染み渡りますね」

「その気持ちはわかる。魔界では味わえない温かさだ」


 殺伐とした魔界にふれあいや、心の温かさが皆無だとは言わないが、やはり人間界、とくに日本には勝てないだろう。

 サマエルも、人の温かさに触れて移住を決意した経緯があるので、マモンの言葉に全面的に肯定だった。


「しかし、困ってしまうこともありまもんまもん」

「なにかあったのか? というか、無理してまもんまもん言わなくても良いだろうに」

「先ほどもおばちゃんに、孫と結婚しないか、と言われてしまいまして。俺がイケオジであることは否定しませんが、突然だったので驚きまもんまもん!」

「私もお前も、見てくれは若いからな。私にも孫や息子を紹介されたが、私は結婚願望がなくてね。代わりに、知り合いを紹介してやったさ」

「なるほど、まもんまもん」


 そんな他愛無い話をしながら、サマエルとマモンは夕食の準備を始めた。

 いろりを囲んで、吊るした鍋に具材を入れて、濃いめの味噌味で整えた豚汁と、土鍋で炊いたつやつやのお米、おばあちゃんたちがから差し入れてもらったたくあん、近所のおじいちゃんが釣ってきた山女の塩焼きを並べ、手を合わせて「いただきます」をして箸を掴む。


「せっかくなので、ショート動画をまもんまもんしましょう!」


 サマエルとマモンで夕食を紹介の動画をアップすると、良い感じにアクセス数があった。

 コメント欄は珍しくまもんまもんばかりではなく、夕食が美味しいそうというコメントに溢れていて、サマエルもほっこり。


「ふっ、明日はいいことがありそうだ」


 久しぶりに動画に手応えを感じたサマエルは、満足してその日を終えるのだった。





 ――そして翌日。





「マモンちゃん! この子が、昨日話した孫だよ! どうだい、贔屓目抜きでいい子だろう?」

「あ、あの、こんにちは。突然、祖母がすみません。真門まもん亜子です」

「――なん、だと!?」






 〜〜あとがき〜〜

 真門亜子さんはいろいろあって、おばあちゃんの家に身を寄せる十七歳。

 もう1話、続くんじゃよ。


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