24「今度は天使が来たんじゃね?」②





「まーたビッグネームのご家族が……あと主夫を名乗っちゃったよ? どうするのこの人? 俺が収拾つけんの?」

「なにをぶつくさ言っている?」

「あの、まずひとつずつ疑問を解決してほしんですけど」

「なんだ?」

「なんでミカエルさん家のアルフォンスさんがうちに?」


 ミカエルの息子が料理が得意だっていい。

 料理をするのは男女変わらない。好きな人がすればいいのだから。

 しかし、なぜ由良家の食卓で飯を作っていたのか、が疑問なのだ。


「そこからだったな。俺は――小梅の婚約者候補だ。おっと誤解するなよ。あくまでも候補だ。候補ったら候補だ。とても候補だ。わかったな?」

「……めちゃくちゃ候補を主張するね?」

「……わかるか?」

「そりゃわかるよ!」


 小梅の婚約者候補を名乗ったアルフォンスに、夏樹は警戒しようとしたのだが。やたらに候補であることを主張するので訳ありなのではないかなと思ってしまった。

 ルシフェルからも、今後小梅の婚約者候補が現れると聞いていたが、アルフォンスからは敵意がない。巧妙に隠している可能性があるが、だとしても自分を含めルシフェルやサタンがいる場に訪れて問題なくいることができるのだ。話くらいは聞いてみようと思える。


「よければ、俺の話を聞いてくれ」

「あ、うん。どうぞ」


 慣れた手つきで急須から飲み頃のお茶を湯呑みに注ぐと、夏樹と自分の前に置いたアルフォンスが語り始めた。


「――実は、好きな人がいるんだ」

「……えっと、頑張ってね?」

「違う。応援してほしいわけじゃない。すでに相思相愛だ」


 おや、と夏樹は考える。

 相思相愛の人もしくは神がいるのなら、小梅の婚約者として現れた理由がわからないのだ。


「ミカエル家とルシファー家は親戚だ」

「親戚とか言っちゃったよ」

「俺の父ミカエルは神界の幹部で、ルシファー家の太一郎さんは魔族のトップだ」

「サタンじゃなくて太一郎呼びなんだね」

「そんな家と家だが、古くから続く由緒正しい旧家だ。そこで、ガブリエル家を始めとした各一族で話をした結果、ルシファー家が落ちぶれていくのを由とせず俺がルシファー家の誰かと結婚することとなった」

「へぇ」

「それが紀元前の話だ」

「かなり前だね! 二千年以上なにやってたんだよ!」


 スケールが神々だ。いや、彼らの場合は天使か。

 アルフォンスの話は続く。


「ルシファー家には長男の一心(ピュア)と次男の三郎」

「次男なのに三郎とか! どうせゴッドなんだろうけど、ネーミングセンスに悪意があるな!」

「長女の花子と次女の小梅だ」

「花子って……絶対、ゴッドが最後に面倒になって適当につけただろ! 力尽きただろ!」


 なんだかんだ言って小梅が一番ちゃんとした名前だったようだ。

 花子も三郎も決して悪い名前じゃないが、ゴッドの名付け方に悪意しか感じない。


「長男と次男は論外だが、長女の花子もとんでもない奴でな。行き遅れで焦っているせいか、婚活をはじめやがった。ほら、よくテレビで見るだろ。無茶な条件を言う人」

「あー」

「というか、神界に結婚相談所がないから自分で作りやがったんだ! やりたい放題しているぞ!」

「うー」

「花子との結婚の話も出たんだが、年収一千万を求められてな……俺、働いてないんだよ。無職なんだよ。ずっと修行していたんだよ」

「うわぉ」

「だからこそ、小梅が結婚するなら一番マシだと思っていたんだが、あの有様だ」


 顎で茶の間でひっくり返っている小梅をアルフォンスが指す。

 一升瓶を抱えて豪快にいびきをかく姿は、人によっては嫌だろう。夏樹的には豪快でよし、だ。


「昔はお淑やかな子だったんだが、ある日あんなになっちまってな。久しぶりに見たが、夫婦としてやっていける自信がない。というか、俺は相思相愛の女神様がいるんだよぉ」

「で、俺にどうしろと?」

「俺をさくっとぶっ飛ばしてくれ」

「それはいいけど」

「お前……話が早いな。ありがたい。一応、父には俺が小梅との結婚にノリノリだ、っていう体はとってある。女神との関係がバレたらまずいからな」

「素直に話して許してもらうっていうのは駄目なの?」

「父はいいんだよ。あまり結婚に関して気にしていないっていうか、反対している感じだ。だがな、ガブリエル様方が由としてくれるか……俺もお前と小梅みたいにほっぺを合わせた写真をSNSにアップしたい」


(神界もいろいろあるんだなぁ。厄介ごとに関わるつもりはないんだけど、小梅ちゃんのことなら一肌脱ぎますか)


「いいよ。じゃあ、軽くボコるから表行こうか!」

「――待て、待て待てまて。そんな輝く笑顔で怖い怖い! ぶっ飛ばしたってことにしてくれていいんだぜ」

「遠慮しなくていいよ。朝ご飯のお礼に、ごりっとぶん殴るね!」


 にっこり笑顔で拳を握り、魔力をバチバチさせる夏樹にアルフォンスが引き攣った顔をした。きっと頼む相手を間違えた、と思っているのかもしれない。

 そんな時だった。

 むくり、と起き上がった小梅が、くわっ、と目を見開き叫んだ。


「結婚する気なんぞまるでないが、なんか振られたみたいでムカつくんじゃがああああああああああああああああああああ!」

「うぉ! 結界張っておいたのに、聞いてたのかよ。ま、まさか俺の好きな人の話まで? て、照れるじゃねえか」

「この俺様よりも美人がどこにおるんじゃぁああああああああああああああああああああああああ!」


 激昂する小梅が一升瓶を投げた。

 瓶がアルフォンスに直撃し、砕けた。

 しかし、破片はきれいに宙に浮いたままである。おそらくアルフォンスが制御しているのだろう。


「ぐへっ、また、負けてしまった。これでは、小梅にはふさわしくない……がくっ」


 これ幸いと小芝居を打ってアルフォンスは、小梅の婚約者候補から脱落したのだった。







 〜〜あとがき〜〜

 実は、他に自称婚約者が控えているのです。

 ちなみに、アルフォンスさんはお料理三番勝負で競い合った運命の女神ノルン三姉妹と良き仲です。

 さらに言うと、今回のお話はサタンさん、ルシフェルさん、銀子さんも聞いていました。春子ママは爆睡中。


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