69「神殺しじゃね?」⑤
二十分ほど待っていると、水無月茅と澪が夏樹の学生服の上着を持って戻ってきた。
「――由良夏樹様。みずち様を……いえ、夫をお救いくださりどうもありがとうございました。そして、わたくしたち家族に時間を与えてくださったことにも、どれだけお礼を言えばいいものか」
「由良くん、ありがとうございました」
瞳を赤くした水無月親子に礼を言われた夏樹は、学生服を受け取った。
「いいえ、こっちもなんか勝手に引っ掻き回して、ごめんなさい。できれば、今後、良い関係を築けたら助かります」
もちろんです、と茅はしっかり頷いてくれた。
「この御恩は生涯、いいえ、水無月家が続く限り忘れません。なにかできることがあるのなら、おっしゃってください」
「あー、じゃあ、こんなときですが、さっそくいいですか?」
「もちろんです」
「今回の件をきっかけに、俺を探るような人間がいたら任せていいですか?」
「はい。水無月家の中でも、外部でも、夏樹様のプライベートをお守りするとお約束しましょう」
「ありがとうございます」
本当は、夏樹がなにものかどうか聞きたいはずだ。
しかし、恩人であるからと追及しないでくれることに感謝する。
「あと、母は一般人なので、今回のことを含めて秘密でお願いしますね」
「……本来なら、御子息を危険な目に遭わせてしまったと謝罪すべきなのでしょうが」
「いえ、別に危険はなかったので」
同じ親として思うことがあるのだろうが、特別危険はなかったし、そもそも余計なことを言って母を巻き込んでしまうのは避けたい。
(ただでさえ俺が完全なる血統とかいう愉快な血なんだし、つまりお母さんだってそうでしょ? その辺が明らかになるのは嫌なんだよねぇ。小梅ちゃん的には人間同士だと顔を合わせてもわかるものじゃないらしいけど、念には念をね)
「あと、できたら、敵意むき出しだった水無月家の霊能力者さんたちをちゃんと言いふくめてくれると嬉しいです」
「そのことならご安心を。由良様の魔力に当てられて、全員力の差に愕然としておりますので」
「ならよかった。無駄な殺生はしたくないですもん」
「……わたくしとしても、目を光らせておきます」
「お願いします」
心配事がなくなったわけではないが、茅の誠意を信じようと思った。
最後に夏樹は、苦笑いして頭を下げた。
「えっと、あのですね、お家とお山を削ってしまいごめんなさい!」
「……いえ、事前にお伝えしていただいていますので、責めるつもりなどございません。幸い、山は水無月家の所有のものですし、うまくやっておきます」
「あー、よかった」
みずちを殺す以上の力は出さなかったし、小梅とジャックの結界のおかげでだいぶ被害は抑えることができたが、それでも被害は大きいと思われる。
夏樹としても、力を出すにあたって制御にかなりの力を注いだのだが、聖剣は相当じゃじゃ馬だった。
異世界の成長した肉体でも制御しきれていなかったので、今後が怖い。
できることなら、二度と使う機会がないことを祈る。
「じゃあ、俺は学校に行くんでこれで」
「では、お送り致します」
「いえいえ、歩いて行くんで大丈夫です」
小梅とジャックとも合流したかったので、申し出をやんわり断る。
会釈して背を向けた夏樹に、茅が問うた。
「由良様はそのお力で、今後なにをなされるつもりですか?」
「特に何も。のんびり、ゆっくり過ごしたいですね。だけど、まあ、変なちょっかいをかけてくる奴がいたら――正当防衛くらいしないと」
振り返らずに、それだけ言った夏樹に、茅はそれ以上聞かなかった。
夏樹はそのまま水無月家を後にしようとした。
「由良くん!」
「はい?」
不意に名を呼ばれて振り返ってしまった。
澪が駆け寄ってきたので足を止めると、彼女は夏樹の手を取った。
「……みずち様のことをちゃんとお父さんって言えた。お父さん、とても安らかな顔をしていたよ。だから、ありがとう!」
以前、顔を合わせた時から少し影のあると思っていた澪だったが、今の彼女は違う。
まるで色鮮やかな一輪の花のようだった。
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