52「殺っちゃってもよくね?」





「待て待て待てぃ! 雲海殿、一族の総意で決めたことをそう易々と翻されては困る! 私も澪を生贄にすることは辛いが、都にすればいいという問題ではないのだ! 私が変わりたいが、それができぬから何年も相談したのであろう!」

「雲海殿、わたくしも愛しい娘を生贄にしたくありません。夏樹様には事情をお話ししただけで、この場で今後のお話をするのもどうかと」


 雲海老女が夏樹の言葉を真に受けて、生贄を澪から都に変えた方がいいのではないかと言い出したので、一族は騒然としはじめた。

 とくに都は自分が生贄に捧げられるのか、と顔を真っ青にしている。澪に至っては、夏樹を射殺さんばかりに睨みつけている。


(……やっぱり、澪さんって妹さんのために力を隠して自分が生贄になろうと思っていたんだね。うん。なんかすみません。こんな展開になるとは思わなかったんです。ちょっと困らせてやろうと思っただけなんです。悪意は、ちょっとしかないんです)


 ごめんね、と澪に向かって夏樹は手を合わせた。しかし、逆効果のようで、顔を真っ赤にしている。

 当初はあまり感情が表に出ない人のように思っていたが、しっかり出るようだ。

 おそらく澪も生贄にはなりたくないのだろうが、妹を生贄にするなら自分がと思っていたのだろう。


(なんだろうこの気持ち……っ、これが罪悪感?)


 明らかに夏樹は余計なことをした。

 正直なことを言うと、澪や都のどちらが生贄になっても特に気にしない。水無月家がそれでよくて、本人たちも納得しているのなら放っておいても構わない。

 だけど、少し違うようだ。


(澪さんは自己犠牲で、母親もおじいちゃんも苦渋の決断みたいだ。澪さんを悪く言ったおばあちゃんだって、生贄なんて出したくないのが本音か。名家もいろいろあるね。でもさ、気に入らないよね)


 異世界の生贄事情と違い、一族総出で生贄をしたがっているわけではない。

 しなければならないから、する。それにあたって、父親が不明の澪が選ばれてしまうなどしたものの、できることなら誰も生贄に出したくないとわかる。


(個人的な感想で申し訳ないけど――生贄を要求する神なんて、殺しても誰も困らないよね?)


 善意からでも、罪悪感からでもない。

 澪を救ってやろうとか、都のためにでもない。

 単純に、水無月家の祀る土地神が不愉快だった。

 気に入らない相手は、魔王だろうと神だろうと、ぶっ飛ばす。

 異世界ではそうしてきたので、地球でも同じことをしよう。

 それで文句を言う奴がいるのなら、その時には相手になる。


(とりま、殺るか。でもなー、出力が不安定なことが問題だ。仮にも神を殺すなら、俺の勇者の力か、聖剣の力のどちらかが必要なんだけど、十四歳の軟弱ボーイの今の俺だと制御がちゃんとできないんだよねぇ。下手したら、山ごと更地だな)


 一族同士で怒鳴り合いに発展している水無月家の皆さんを放置して、夏樹はどうやって土地神を殺そうか腕を組んで考えるのだった。





〜〜あとがき〜〜

殺ります。

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