51「面倒なことを聞いた気がしね?」②






「あのー、関わるつもりはないんですが、このままだととても気になるので教えていただけませんか? このままだと気になって帰っても寝られないんですけど」


 老女は言いたい放題だったが、当主と星雲老人は夏樹に『生贄』に関して聞かせたくなかったようだ。

 明らかに苦々しい顔をしている。

 夏樹としても、水無月家を助けてやる義理はないのだが、偽物の神に騙されているとかなら恩を売ってもいいかなと考えていた。


「……ここだけの話しとしていだけるのであれば、お伝えしましょう」

「もちろんです」


 下手に隠して夏樹に不審に思われるよりも、話したほうがいいと判断したのだろう。

 当主は、澪を一瞥してから語り出した。


「水無月家は、代々、水を司る土地神様を崇め、お力をお借りしていました」

「えっと、一応聞いておきますが、本物ですか?」

「もちろんです」


 はっきり断言する茅。

 夏樹はこっそり水無月家を探ってみる。

 いくつか封印か結界などでわからない場所があるが、小梅のような神気は感じない。むしろ、その逆の力の残滓をうっすらだが感じ取ることができた。


「土地神様は、人々を助けてくださいました。ですが、その代償も大きく、穢れ、神としての力を維持することができなくなったのです」

「それで生贄ですか?」

「……はい。過去に、五度行われました。そして、この現代になにを馬鹿なことをと思われるでしょうが、澪となりました」


(五回も生贄捧げているって……やっぱ騙されてない? それとも、一時的に土地神の力を取り戻すけど、やっぱり穢れてまた生贄が必要でその繰り返しとか?)


 無駄なことをしているのではないか、と言おうと思って慌てて口を閉じた。

 水無月家が祀る神に対して余計なことを言ったせいで、敵対することになるのは面倒だ。さすがにこの面々を前にして夏樹も口にはしなかった。

 全員が襲いかかってきても問題ないが、後処理が面倒そうだ。


「あの、どうして澪さんが?」

「澪は落ちこぼれだからだ!」

「……おばあちゃん失神した割には元気ね。夏樹くんもびっくり」


 先ほどの老女が起き上がり、唾を飛ばして澪を指差す。


「この娘は、お前以上にどこの馬の骨ともわからん」

「なんで?」

「母親こそ茅だが、父親はどこの誰かわからんのだ! そのせいだろう。霊力も、素質も、都にすべて劣る能無しだ! ならば、生贄にしか使い途がないであろう!」


(ぶふっ、節穴すぎるんですけどぉ! どう見ても、澪さんのほうが潜在能力高いでしょう。ん……んん? あれ? もしかして)


「ご家庭の事情にまで口を出すつもりはありません」

「わかればいいのだ!」

「でーもー」

「なんぞ!」

「要するに、澪さんが能無しだから神様の生贄にしちゃえーって言う感じですよね?」

「だからなんだと言うのだ! これは水無月家の問題だ! 外部の人間がとやかく言うことではない!」

「そうじゃなくてね、おばあちゃん。俺が言いたいのは、それでいいのってこと」

「おば……なんだと?」


 夏樹におばあちゃんと言われて面食らったようだが、老女はそれよりも夏樹の言葉の意味を尋ねた。


「だからね、よーく考えてね。能無しを生贄にして意味があるのかなーって」

「……何を言っている?」

「あー、えっと、そうだそうだ。奉納米ってあるじゃない。よく知らないけど、あれって、出来のいいお米を奉納するんでしょう? 出来の悪いお米は奉納しないでしょう?」

「……そう、だな」

「だからね、神様にも同じじゃないかなって。俺が神様だったら、生贄が能無しだったら、なんで優秀なほう寄越さないのってなるなー。すごく怒るなー。祟るよ。七代先まで祟るよ!」

「……それは」

「おばあちゃんもさ、神様視点で考えてみて。生贄捧げます。能無しだからどうぞ! ってなったら、怒らね? 激おこじゃね?」

「――一理ある」


(嘘ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?)


 自分で言っておきながら、夏樹は絶叫した。

 まさか老女が夏樹の言葉にちゃんと耳を傾けるとは思わなかったのだ。


「確かに、この子供の言う通りだ。能無しが生贄としての価値があるかと問われれば、疑問でしかない。人ならなんでもよければ、私が喜んで生贄になってやろう。だが、それはできず、若い女子ではないとならぬ。せめて私があと十歳若ければ」

「無茶言うなよ! あと五十歳だろ!」

「小童! 貴様、少しはまともなことを言ったと思えば、六十歳ならば十分に若いではないか!」

「……なんか、すみません。それでいいです」

「まったく近頃の若者は! 茅、いや、当主よ」

「な、なんでしょうか雲海殿」


 茅は激昂していた老女が落ち着きを取り戻したことに驚いていた。

 それ以上に、夏樹の言葉を受け、納得している様子にもっと驚きを隠せていないようだ。


「よくよく考えれば、澪も当主の血を引いているには間違いない。ならば、優れた都を生贄とし、次の生贄まで時間を稼ぐという方法もあるのではないだろうか?」


(このおばあちゃん、変な意味で柔軟すぎぃいいいいいいいいいいいいいいい! 嫌がらせで言ってみたのに、この急展開には俺でもついていけないんですけどぉおおおおおおおおおおおお!)








 〜〜あとがき〜〜

さすがの夏樹君もおばあちゃんがちゃんと話を聞いてくれるとは思いませんでした。


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