38「名前って大事じゃね?」②
「ルシファー・小梅……小梅ちゃんって呼んでいい?」
「お、おう」
「いいんじゃん、小梅ちゃんってなんかかわいい響きだし、かっこいい系の小梅ちゃんに対して名前がギャップがあっていいよ!」
「そ、そうか?」
「うんうん!」
「そ、そうじゃろ、そうじゃろ! 実は俺様も小梅っていい名前じゃなーって思っていたんじゃ!」
「でしょでしょ!」
無駄に名前にいい反応をする夏樹と、急に名前を気に入り出す小梅に、銀子はちょっと面白くなさそうに傍観に徹しているジャックとナンシーにつぶやく。
「夏樹くん、コミュ力高すぎません? 勇者ってコミュ力無限じゃないと務まらないんすかね? あと、小梅さんチョロすぎません? なんか勧誘とかに簡単に騙されそうな勢いっすよ」
「勇者がなにを指すのかわからないが、夏樹が好ましい少年だということは理解している。小梅殿も、なにか誤解があって戦うことになったのだろう」
「ジャックさんはジャックさんで懐が深海っすね」
銀子はとりあえず事後処理を始める前に、ひとつひとつの問題を片付けることにした。
「ちょっと、小梅さん」
「なんじゃ!」
「なんじゃ、はこっちっすよ。なんで夏樹くんに襲い掛かったんっすか?」
「ああ、それは俺も知りたかった! 魔族とか、狩りとか言っていたけど、それが関係してるの?」
「関係もなにも、お前は魔族じゃろ!?」
「違いますけど」
「え? 違うの?」
「はい」
何度も否定してきたが、夏樹は魔力は持っているが、魔族ではない。
おそらく、この世界では人間は例外があるが基本的に霊力、神族は神力、魔族は魔力と別れているのかもしれない。
まだ魔族にあったことがないのでなんともいえないが、この調子ではそのうち邂逅しそうな予感がする。
「えぇ……その魔力量はどう考えても人間に擬態している高位魔族じゃろうて……あれ?」
「あれ?」
「お前人間じゃ! つーか、人間のくせに俺より力あるとかこわぁ! 人間こわぁ! なんじゃ、最近の人間て天使を超越したんか!? 俺はこれでも由緒正しいルシファーさんちのお嬢様じゃぞ! まさか、そっちの人間も……なんじゃ雑魚か」
「雑魚って言わないでください! つーか、天使に比べたら人間なんて基本的に雑魚っすよ! 夏樹くんがひとりだけバグってるんっすよ!」
「バグとか言わないで!」
魔族扱いから、バグ扱いまでされた夏樹はさすがに抗議の声を上げる。
いくらなんでもバグは酷い。
異世界で勇者になって、魔王と魔神を倒して、ルシファーと戦えるほど成長してしまったことは認めるが、まだ人間の範疇であると信じたい。
「なんじゃ。人間じゃったのか。それなら、すまんかった。さっきも言ったんじゃが、俺は親父への嫌がらせと、ゴッドにいい子に魔族狩りしておるぞーというアピールを兼ねておったんじゃ。強い魔族がいると思ったんで、問答無用でぶっ殺してやろうかと思ったんじゃが、勘違いじゃった、ごめんなさい」
「あー、いえいえ、そんな謝ってもらえれば別に。こっちも真っ二つにしたり、焦がしたりしてごめんね」
「お互いに謝罪の言葉を述べることができたのなら、きっと良い関係になれる。では、仲直りの握手といこう」
謝罪しあった夏樹と小梅の手をジャックが取る。
ふたりはまっすぐ見つめ合い、しっかり握手をした。
「――素晴らしい。種族を超えた友情に幸あれ!」
「お、おう、えらくノリのいい奴じゃの――う?」
ここで小梅とジャックがしっかり顔を合わせた。
「レディに名乗っておらず申し訳ない。私は、ジャック・ランドック・ジャスパー・ウィリアムソン・チェインバー・花巻という。こちらは婚約者の」
「ナンシーデス。ヨロシクオネガイシマス」
「んんおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 宇宙人じゃ、グレイがおるぞ! つ、捕まえるんじゃ、夏樹! 政府に売れば人間の一生なら遊んで暮らせるぞぉおおおおおおおおおおおお!」
「由緒正しい天使でも宇宙人が未知なる生命体とか、謎深すぎぃー!」
もしかしたら神々が宇宙人説の可能性もゼロではないかもしれない。そんなことを思った夏樹は、うーん、と背伸びをすると、
「腹減ったし、そろそろ家に帰りたいんですけど!」
イベント盛りだくさんの一日に流石に疲れていた。
〜〜あとがき〜〜
そろそろ義妹あたりの視点へ。
お楽しみにしていてください。
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