36「事後処理は丸投げでよく、ね?」
「えっと、お姉さんは……」
「青山銀子っす! 青山久志の娘っす!」
「え!? おじさんの娘さんなの!? お子さんがいるって聞いてたから、ずっと気にはなっていたんだけど」
青山署長に娘さんがいたことは聞いていたが、思い返せば会ったことはなかった。
まさか、特に何も考えず魔剣をあげた相手が娘さんだったとは思わなかった。
「末長くよろしくお願いしまっす!」
「うん? はい、お願いします」
少々不思議な挨拶をされたものの、特に気にせず夏樹はジャックとナンシーに向いた。
「ジャックたちが無事でよかったよ」
「それはこちらのセリフだ友よ。まさか建物が崩れるとは思っていなかった。私が感知した以上に君の力は壮大だったようだね」
「まあいろいろあったんで」
ジャックと肩を叩き合い、お互いの無事を祝った。
近くで「コミュ力たっけぇ」と感心している銀子がいるが、夏樹としてはグレイのジャックはとても紳士なので、むしろ彼のおかげで親しくできるのだと思っている。
「ナツキサン、タスケテクダサリ、ドウモアリガトウゴザイマシタ」
「いえいえ、ナンシーさんも無事でなによりだよ。人間が怖い思いさせてごめんなさい。だけど、あんな奴らばかりじゃないから、ジャックも、人間を嫌いにならないでくれると助かるんだけど」
「気にすることはない、友よ。我々の中にも悪人と善人がいる。人間全てが悪人ではないとわかっている」
「ニンゲンノコトハスキデス。ワタシ、ガクセイジダイ、ニンゲンノレキシヲベンキョウシテイマシタノデ」
「勉強熱心なんですね。すごいな」
「ナンシーは地球学を専攻しているのだよ。だから婚前旅行も地球を選んだのだ」
とにかくこの気のいいグレイたちが不幸な目に遭わずに済んでよかった。なによりも宇宙人と大戦争に発展しなくてよかったと安堵した。
「えっと、夏樹くん。一応、ジャックなんとかさんからナンシーさんが誘拐されて助けるために乗り込んだっていうのは聞いたっすけど。奴らどうします?」
「あまり我々の存在は知られたくない。宇宙的装置で記憶を消しておこう」
「なんつーか、ジャックも彼女さんも人がいいよな。解剖されかけた奴らを助けるなんて」
「我々は人間の死を望まない。やむを得ない場合もあるが、夏樹のおかげでそうはならなかった。感謝している」
「アリガトウ、ナツキサン」
「なんだか、照れくさいな。たいしたことしてないんだけどなぁ」
異世界では、どれだけ戦っても敵を倒しても、やって当たり前であり感謝などまともにされたことはない。口では「ありがとう」と言いながら、化け物でも見るような目で見られていたし、どう利用してやるかと考えていることが容易くわかっていた。
そんな奴らに対し、ジャックとナンシーは本当に心から感謝してくれている。それが、心地よく、少しくすぐったかった。
「ちょ、なんすか、解剖って!? こいつらナンシーさんを解剖しようとしていたっすか!?」
「うん。死刑でよくね? あと、グラサン野郎がいたと思うけど、そいつは神が宇宙人説を証明しようとなんか暗躍してた」
「……なんかの宗教かなにかっすか?」
「さあ?」
「グラサンはかけていませんでしたけど、ひとり霊能力者がいたのは確認してるんで、そいつは私に任せてほしいっす。悪いようにはしませんので」
ちらり、とジャックを伺う。
彼は頷いてくれた。
「じゃあ、よろしく。ついでに後始末もよろしく!」
「その後始末が一番大変じゃないっすか!? あー、もー、ガス爆発か、なんか適当にでっち上げてこいつらに罪を被せるからいいっす」
「うわー、こわー!」
「いや、真面目な話っすけど、宇宙的ななんかで記憶消してチャラにはできないんじゃないっすかね。よくわかんないっすけど、グレイとの遭遇とかお父さんにしか話せねーっす!」
確かに、宇宙人とはいえ誘拐をしているし、結果的には殺害もしていただろう。
解剖を企むなど、ただの殺害よりもタチが悪い。
しばらくお勤めするか、記憶と一緒になにもかも脳を白紙にしてもらって人生やり直したほうがいいと思う。
「まあ、その辺りはお父さんに丸投げするんでいいっすよ。で、そこの真っ黒こげの翼生えた方はどなたっすか!?」
「えっと、自称ルシファー」
「明けの明星!? まさかの大物っすね!?」
ビッグネームに銀子が驚愕を浮かべたとき、
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
気絶していたルシファーが意識を取り戻した。
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