35「名前が紛らわしくね?」③






「げほっげほっ、やりすぎちゃった。手加減はしたんだけど、意外と脆かったな」


 瓦礫を蹴飛ばしながら、ルシファーを探すと、すぐ近くに両断された状態で転がっていた。

 血と内臓を撒き散らし、純白の翼を生やした上半身と、ジーンズを履いた下半身に見事に分かれていた。

 気持ちの悪いことに、下半身は元気よくじたばたしているのだ。


「き、貴様、よくも俺を真っ二つにしやがったな!」

「おー、すごっ! ルシファー名乗るだけあって、真っ二つにされても元気元気。手加減したとはいえ、仮にも魔王の愛剣でぶった斬られてそれだけ元気がいいなら、もっと試してみてもいいよね!?」


 異世界で習得した魔法や、自分の勇者としての力をほとんど使っていない。

 水無月都を学校の屋上で真っ二つにしたのは、ただの魔剣だった。今回、ルシファーを両断したのは魔王の愛剣だった。もちろん、魔剣に魔力を吸わせて力を制御して使うのだが、まだ夏樹は自前の力を使っていない。使う相手もいない。

 だが、目の前には真っ二つにされても元気な人外がいる。

 ルシファーが天使だか魔族だかよくわからないが、喧嘩売ってきたのは向こうなので存分に力を試させてほしい。


「おお? 再生か修復かわからないけど、回復しちゃう? どうぞどうぞ?」


 光に包まれると、撒き散らした血液はそのままで、肉体が修復されていく。

 夏樹はあえて手を出さずに見守った。

 興味本位なだけで、特に他に意味はない。あるとしたら、相手がそこそこ元気がなければ力を試しようがないと考えたくらいだ。


「舐めくさりよって、その傲慢さを呪うんじゃな! 俺の本気はこっからじゃぁああああああああああ!」

「傲慢じゃなくて、余裕って言うんだよ。俺をどうこうしたけりゃ、あんたと同じ力を持つルシファーさんをあと十人くらい連れてこいって」

「ルシファー舐めんなぁあああああああああああああああ!」


 衣服こそボロボロだが、翼を広げたルシファーが愚直に真っ直ぐ突っ込んできた。

 今度は光の槍ではなく、光を纏った拳を振り上げている。

 よほど夏樹に腹が立っているのだろうか、とにかく殴りたいように見受けられた。


「力がある奴って、絶対真っ直ぐ突っ込んでくるんだよね。だから、こっちは迎え打てばいいだけ。力比べなら、大好きだ! ――走れ雷」


 夏樹の足元から、雷が迸る。

 まるで蛇のようにルシファーの足元から翼の先端まで絡みつき、その身を焼いた。

 雷に全身を焼かれ、悲鳴すら上げることができない。

 しばらく雷を放っていたが、そろそろ限界だと思われたので、引っ込める。

 どさり、と全身を焦がしたルシファーが瓦礫の上に転がった。

 さすがと言うべきか、まだ息はしっかりしている。おそらく気絶しただけだ。

 ルシファーという有名な名前の彼女に興味を覚え、また魔族と勘違いされたことなどいろいろ聞きたいことがあるので、殺さないことにした。


「殺せるかもわからないんだけどね」


 気を失っているルシファーの右足を掴んで、瓦礫を蹴飛ばしながら元ビルの敷地から出ていく。

 すると、ジャックとナンシー、そして警察署の署長室にいた女性が駆け寄ってくる。


「あ、ども」

「ども、じゃないっすよ! 私、未知との遭遇とかしちゃったじゃないっすか! どうしてくれるっすか!」

「大丈夫大丈夫。俺も一時間前に遭遇したばかりだから」

「たった一時間で宇宙人と親友になるとか、夏樹くんコミュ力高すぎません!?」


 ジャックとナンシーの無事と、青山署長が信頼できる人として宇宙人との邂逅に動揺を隠せない女性を送ってくれたことがわかり、夏樹の肩から力が抜けた。





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