18「魅了とかキモくね?」①





(おいおいおいおいおいおいおいおい! 嘘だろぉおおおおおおおおおおおおお! 女子から何も感じなかったし、優斗からもなにも感じなかったけど、触れたらやっとわかったぞ、魅了だこれ! すごく弱いけど触ったことで発動する魅了だ! うわー、魅了とかラノベじゃないんだからやめてよー!)


 と、心の中で騒いでみたものの、優斗の魅了はさして気にするものではない。

 あくまでも接触することで、他者の興味を好意的に向ける程度だ。

 魅了であるゆえに、その好意的が面倒ではあるものの、あくまでも優斗の魅了はきっかけ作りだ。


(異世界に魅了持ちがいたけど、本当の魅了はこんなもんじゃないからなぁ)


 魔王配下の四天王のひとりがサキュバスの女王だった。

 彼女の力は、老若男女問わず魅了してしまう。その力の強さもすさまじく、狂おしいほど恋焦がれる感情を与えられるようだ。それこそ、世界を敵にしても愛を貫く覚悟を持たせるほどらしい。

 夏樹は魅了は効かない体質だ。勇者であることや聖剣が理由ではなく、魅了の効かない体質というシンプルなものだった。


 サキュバスの女王に対し、優斗の魅了は本物ではない。

 夏樹は、鑑定眼を持っていないし、相手の能力を見抜くスキルも力もない。だが、わかることもある。


(優斗には潜在能力がある。それも、かなり強めだ。本人は気づいていないけど、漏れた力がなんらかの影響で魅了のような力になっているって感じかな?)


「夏樹?」

「なんでもない、静電気静電気! うわっ、静電気つよっ! じゃあ、そういことで」


 ひとつだけ、はっきりしたことがある。それは、あくまでも優斗の魅了は第一印象をよくする程度でしかない。初対面で恋心を抱かせることや、他人の恋人を奪うような魅了ではないのだ。つまり、現在優斗に夢中になっている少女たちは、きっかけこそ魅了だったかもしれないが、あくまでも自分の意思で優斗に恋しているのだ。


(まあ、顔はいいし、背も高いし、女の子とのことはなんでもいうこと聞いてくれるし、女子からすれば好印象しかないよね。盲目になる理由はわからないけど、まあ、自己責任ということで)


 あえて、不安要素を言うのであれば、接触が多ければ魅了は重なるだろうということ。

 手を繋ぎ、キスをして、それ以上のことをすれば必然、魅了は強くなっていくはずだ。もちろん、それでも限度があるので、やはり本人たち次第だろう。


(もともと大した魅了でもないから、彼女を作ったってことがきっかけになって解けたのか……あー、いや、それだと辻褄が合わないけど……現状はわからないし、解る必要も感じないからいいや。今度、青山のおじさんにチクっておこう。あ、そうだ。水無月家と会う時にさらっと言ってみるのもいいかもしれない)


 こちらの世界で魅了がどのような扱いになるのかわからないので、余計なことはしない。

 夏樹には、誰かの力を封じるような器用な真似はできない。力を使えないように『壊す』ことは可能だが、それも難しいのだ。


(待て……俺は魅了耐性あるはずだよね? なんで手心加えようとしているの? さすがに殺すことはできなくても、ぶっ壊すくらいしても……いや、駄目だ。一登やおばさんに迷惑がかかる。力を封じられないのが残念だな)


 異世界で荒んだ日々を過ごし、スレている夏樹ではあるが、優斗をどうにかした結果、親しくしている三原一登や、優斗の両親を傷つけることになると考えると躊躇いが生まれる。

 その思考が、夏樹の純粋な思いなのか、それとも魅了に当てられているのか自己判断ができない。


(……優斗の魅了は本当の魅了じゃない。あくまでも漏れた潜在能力が魅了という作用をしているだけだ。俺に影響はない、うん、それでいい。ああ、もう、俺は攻撃特化型なんですけど!)


 一度冷静になるために距離を置くべきだ。

 もとより関わるつもりはないし、優斗の周囲の女性たちがどうなろうとあまり気にならない。あくまでもきっかけでしかない魅了の力なのだから、優斗をどう思うかは彼女たち次第だ。


(思い返すと、熱狂的な子はいるけど、その逆に嫌っている女の子もいるにはいるんだよね)


 夏樹は放置することに決めた。

 対策してくれそうなところに話をして、丸投げでいい。


「じゃ、さようならー」

「待てよ!」

「なんすか?」

「夏樹は怒っているんだよね? 僕が乃亜ちゃんを取ったから」

「は?」

「僕が夏樹が好きになった乃亜ちゃんの彼氏になったから、嫉妬して僕に友達じゃないなんて……そりゃ僕も悪かったけど、前から言い寄られていたんだし、どうせ夏樹には可能性もなにもなかったんだから、ムキにならなくてもいいじゃないか!」


(こいつと話していると、頭痛くなるんですけど!?)


 はぁ、と何度目になるかわからないため息をついた。





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