13「用があるならそっちが来るのが筋じゃね?」②
「まさかとは思いますが、はぐれ霊能力者程度が、水無月家の当主に自ら足を運べと言うのですか!」
「え? だって、用事があるのはそっちだよね? 俺はないんですけど」
「……はぐれ霊能力者風情が! 我が一族に逆らうとどういうことになるのかわかっているのですか!」
「わからないし、どうでもいいよ」
(まあこうなるよね)
都の反応を予想していながら、夏樹は従うことはしなかった。
青山署長から大人しくしておけと言われたばかりなのだから、霊能力者、それも面倒そうな一族とは関わりたくない。
それでなくとも、元義妹が急に近づいてきたので不愉快なのだ。用があるのにこっちが来いと言うような相手と関わって、さらに不愉快になりたくない。
夏樹の経験上、上から目線で物を言ってくる奴に碌な奴はいない。
異世界の人間はだいたい都のような物言いだった。いや、もっと酷かった。そして、性格も性根も直しようがないほど腐っていた。
「――ふ、ふう。いいでしょう」
「へー」
てっきり怒りを爆発させると思っていたが、感情のコントロールが少しはできているようだ。
夏樹が素直に感心していると、彼女は静かに霊力を高める。
「はぐれ風情が力があると勘違いしているようですが、上には上がいます。思い知らされたくなければ、従いなさい」
「べー、だ」
「馬鹿にして!」
「戦いたいのなら、戦ってあげるよ? でも、後悔してもしらないよ?」
脅しではない。
由良夏樹は基本的に、穏やかな人間だ。
痛いことは嫌いだし、誰かに痛みを与える趣味もない。
だが、上から物を言う人間や、こちらの事情など知ったことではないという自分本位のやつは大嫌いだ。
異世界では、横柄な奴らはみんなぶっ飛ばしてきたし、力づくで捩じ伏せてきた。
日本で暴れるつもりはないが、ようやく取り戻した平穏を邪魔する奴には容赦するつもりはない。
(殺しはしないけど……うーん、正直言うと、ちょっとこっちのファンタジーな奴らがどのくらいできるのか楽しみではあるかな)
霊能力というこちらの世界のファンタジーに関わる警察官たちは、夏樹の力に恐怖を覚えた。しかし、都は恐るどころか、戦う気まである。よほど自信があるのだろう。
あまり力は感じないが、都を見て、霊力という力を感知することはできた。
夏樹の持つ魔力とは違う、もっと透明な綺麗な力だ。
うまく説明できないが、感覚的には、魔力も霊力も命の力だと思われるが、質が違うようだ。
『なんとなく違う』程度の感覚しかない。
(霊力と魔力の違いはさておき、この子からあまり力を感じないんだよね。うーん、せいぜい向こうの宮廷魔法使いくらい? でも、向こうの人間ってめちゃくちゃ雑魚だったからなぁ)
期待していいものか、どうか迷う。
その間にも、都は魔力を高め続け、そして変化が起きた。
「いいでしょう。ならば、そちらこそ痛めつけられても文句を言わないように」
「君の態度を見ると、最初から話し合いをするつもりがあったのか疑問だよね」
「私はあなたに用事はありません! あくまでも当主である母の命令に従っただけです!」
(この子の母親が水無月家の当主ってことか。……じゃあ、殺さない方がいいかな? 念の為。最悪、敵対してぶつかるときに、みんな殺せばいいだけの話だし)
少々物騒なことを考えていると、都が虚空からすらりと一振りの刀を抜いた。
夏樹が持つアイテムボックスとは違う。
刀を取り出したのではなく、呼び寄せたという感じた。
(おおっ! この子よりもよほど刀のほうが力があるな!)
「善意で言っておきますが、早めに降伏することをお勧めします」
「あ、はい。ありがとう」
「――っ、舐めるな!」
夏樹の挑発を受け、都が地面を蹴った。
片手に刀を握り、力強く足を踏み込んで、上段から一気に斬ろうとしているのがわかる。
(うん。なかなかいい感じの一撃だね。じゃあ、俺も剣で答えようじゃない!)
夏樹はアイテムボックスから、一本の魔剣を取り出すと、都とは違い型もなにもなく、ただ無造作に右腕で払うように剣を振るった。
――次の瞬間、魔力が込められた魔剣が都の刀と胴体を両断した。
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