吹雪の悩み

羊丸

吹雪の悩み

 ひとり寂しい部屋の中、太田カナは暖かいココアを飲みながらお笑い番組を見ていた。だが一向に笑いなんて起きない。外からは激しい吹雪が聞こえてくる。今頃地面は雪に真っ白と染めているだろう。

 そんなことを考えながら視線を画面に向けた。

(あと残り一年の大学生活とこの先の人生、どうゆうふうにいけばいいんだろ)

 カナには悩みがある。それはこの先の人生だ。

 どうゆう風に歩み、どうゆう風なところで働いた方がいいかがわからない。親には自分なりにしていったらと言われたがそんな夢なんてない。ふと時計を見た。

 時刻は夜の十一時。そろそろ夜中になりかけていた。

 そろそろ寝ようと窓から響いてくる吹雪の音を聞きながらココアを飲んだ。すると、机の上に置かれていたスマホが鳴った。見てみると舞からだった。

 舞は中学時代からの友人で、破天荒で天然、いつも笑顔で明るい性格だ。彼女から連絡とは一体なんだろうと思いながら電話に出た。

「もしもし」

「あっ! カナ! 今、自分の家?」

「うん。そうだが、何?」

「よかった。それじゃあ、今から会わない?」

 あまりの突然の言葉にカナは驚きの声をあげた。

「おいおい。時間を考えろよ。もぉすぐ夜中だぞ」

「だからいいんだよ! 夜中の吹雪ってそうそう見ないじゃない? だから少しでも遊びましょ!!」

 舞の声にため息が出そうにはなったが、少しでもこの悩みが消えればいいなと思い良いと返事をした。

「ありがとう!! 今、向かうから家の中で待ってて。着いたら連絡する!」

 舞はそういうと電話を切った。  

 カナは残りのココアを飲み干すと小さめのカバンの中に財布とスマホ、鍵を入れ、ジャンバーを着るとマフラを首に巻いた。

 外に出ると冷たい風と雪の結晶が頬に触り、体が震えた。口からは白い息が出てくる。

(やっぱ夜中近くの吹雪は寒いな)

 下を見てみると予想通り真っ白に染まっていた。電柱には少しだけだが雪が積もっている。

 すると。カバンの中に入れていたスマホが鳴った。電話にでながらカナは周りを上から探すと手を振っている人物が見えた。

 同時にスマホから舞の声が聞こえてきた。

「あっ! カナ。今手を振っているのが私! 早く降りてきてー!」

「はいはいわかった」

 カナは住民に迷惑をかけないように駆け足でマンションを降りた。

 近くまでくると舞のいつも通りの笑顔がほんの少しの灯りでも見えた。

「ヤッホカナ! 元気?」

「元気よ。あんたは聞かなくても元気そうね」

「うん! 結構元気だよ! まぁ少し歩こうよここら辺。一面雪景色だからさ」

 舞はカナにおいでと手を振りながら先に歩いた。

 カナは全くと思いながら舞の後を追った。

 歩く度に冷たい風に乗って雪が顔とマフラーに着く。カナはそれをはらい、舞を見た。相変わらず子供のようなテンションで腕を広げて歩いている。

 よくあんなテンションでいられるなぁと思いながら空を見上げた。いつもなら真っ黒に染まっている空は雪のせいで灰色となっていた。

 後ろも見てみると、カナと舞の足跡しかない。まだこの吹雪が続くというのなら足跡も埋まるだろう。

 そう思っていると冷たいのがお腹に当たった。驚くと、舞がもう一個持っている雪を持ちながら笑った。

「ハハハ! カナ驚きすぎだよーー!」

「はぁ! やったわねあんた」

 カナは舞に飛びつき雪の上に寝かせた。そして夜遅くにもかかわらず、お互いの行動に笑った。

「やったー! カナが笑ってくれた」

「えっ?」

「だってカナ、さっきまで少しだけ険しい顔をしていたよ。まるで何か悩んでいるような表情をね」

 舞はカナの頬を突きながら言った。

 カナはそれほど険しい表情で悩んでいたのかと心の中で思った。

「当たっているよあんた。そう、さっきまで私悩んでいたのよ」

「ほぉ。じゃあせっかくだから結構話しやすいところにする? レストランだと一目に着くから、公園とかどう?」

「なんで公園。寒すぎるだろ」

「そこは暖かい飲み物でも飲みながらね。だって人気のない方が悩み話しやすいじゃん。それに吹雪も少しやんできたんだから」

 舞の言う通り先ほどの吹雪はいつの間にか止み、ゆっくりと雪の結晶が降っていた。

 悩みを言うにも人気のない場所がしゃべりやすい。それなら仕方がないと言いながらお互いついた雪をはらいながら立ち上がった。

「良いよ。その代わり飲み物奢って」

「もっちろん! じゃあ私のおすすめの場所で良い?」

「うん。場所はあんたに任せるわ」

 話すと舞のおすすめの場所に向かった。向かった場所は人気がない公園、遊具もブランコと滑り台しかなく、明かりが少しだけ点されている場所だった。

 そして、カナが東京に引っ越してからも来たことがない場所だった。

「へぇ。ここ、初めて来た」

「あらそう? まぁ良いや。近くに自動販売機があるからそこで飲み物買ってくるね。ブランコにでも座っときな。あっ、それと何飲む?」

「ミルクティー、ホットね」

「はいはい」

 舞は積もった雪の中を動物化のようにはしゃぎながら自動販売機に向かった。

 カナは鎖が錆びれたブランコの上にある雪をはらい、座った。鎖を握ってみると氷のように冷たかった。

 座るとほんのりピンク色になった手に息を吹きかけた。

 空は今だに灰色のまま雪の結晶を降らし続けている。息を吐くと白い息が出てくる。

 体についた雪の粉をはらっていると、目の前にミルクティーと書かれた缶が目の前に出された。見上げると舞が自分のを持ちながらカナの分を出してくれた。

「はい! ミルクティーだよ。熱いからきよつけてね」

「あぁ。ありがとう」

 カナは受け取ると一気に指先と手のひらが暖かくなった。

 舞は隣のブランコに座ると先に蓋を開け、息を吹きかけて飲んだ。

「ふぅ。寒いところで飲む暖かいのは美味しいー!」

 舞は笑顔で言っていたがすぐに我を返った。

「あっ! そういえばカナ。一体何を悩んでいたの?」

 舞はカナを見つめながら質問をした。

「あぁ。実はな」

 人とり悩みのことを舞に説明をすると、なるほどとカナは一言言った。

「この先の人生に悩みか」

「うん、私まだ何をやりたいのとか考えていないし、おまけに、この先どうゆうことが起こるのか、怖いんだ」

 カナはミルクティーの缶を握った。

「今はまだ生活が普通だからまだいいよ。でも、何かの拍子でこの安定している生活が壊れるとか、変なことに引っかかるとかあと人間関係とか」

 カナは後先のことを考えると胸がムカムカとしてきた。

「私もだよ。同じ悩みだね」

 舞の言葉にカナは驚きの声を出した。

「えっ! あんたが」

「うん。こーんな風に」

 舞は自分の両頬をつねって笑っているかのように見せた。

「笑っているけど、裏では結構悩んでいるんだよ。この先の人間関係とか色々ね。例えるんだったらそうね。受験やった時の結果を待つかのような悩みかな? 後先のことを考えるなんて色々いるよ。この悩みなんて世界中にいるんだから」

 話を聞いたカナは開いた口が塞がらなかった。

 あの舞がこんな顔をしているなんて思いもしなかった。いつもみんなの前で笑顔で見せている舞がこんな悩みを抱えているなんて思いもしなかった。

「まぁでも、もう一年で卒業だから不安になることもわかるよ」

「確かにね。あんたは、夢とかは」

「あるよ。でも不安」

「なんで」

 カナは聞くと、「考えていることは現実になるとか限らないから」と言った。

「だから不安で、怖い」

「あぁ、確かに」

 カナは舞の話に同意をしながらミルクティーを飲んだ。

「あなた、結構悩んでいたのね」

「えぇ。でもこーんなに笑っているんもんだからそれは悩んでいなさそうに見えるよね」

「うん、人は見た目で判断をしないってこうゆうことなんだな」

 カナの言葉に舞は頷いた。

「誰だって平気にしてそうにしていても、裏ではいくつかの悩みを抱えている奴だっているのよ」

 舞はそう言うとミルクティーを飲んだ。

「本当に、世の中ってなんだろうね。理不尽なことや嫌なことが沢山あるし、変なこともあるからな」

 カナは古びた公園を見つめながら言った。

「まぁ変な世の中で溢れているよ。でも、カナ!」

 いきなりの大声にカナは肩をびくつかせると、舞は目の前に来て肩を掴んだ。

「悩みを抱えることは誰だってすること! 歳を重ねるごとに悩んでいくわ。でも悩んでいるなか日常を過ごすとその分の時間がどんどん減っていくわ。だから悩んでいること! 私に他の友達に教授、誰でも話せる人に悩みを打ち明けてみて!」

 側にある少しの光でも、舞が笑顔で語りかけてくるカナになぜだから胸がスッとする感覚を感じた。

(誰でも話せる相手、確かに良いかもな)

 カナは少し微笑みながら思った。

「そーれーにー! 真夜中の雪ってなんだか気分が落ち着くでしょ! 私ね、こうゆう自然を見ると心が安らぐんだ」

 舞は空を見上げながら言った。

 カナも、もう一度空を見上げた。今だに灰色に染まり、その中から雪の結晶を降らし続けている空になぜだか心がもっと清々しくなっていった。

「……あんたのいう通り、なんだかスッとしたわ」

 カナは緩くなったミルクティーを一口飲んだ。

「ありがとう舞。気持ちがスカッとしたわ」

「えっ! 本当! それはよかったわ」

 舞は自分のことのように笑顔でいった。なぜだか雪の結晶と光で舞の笑顔が光と合わさって綺麗と感じた。

 カナは少しだけ微笑むと、ミルクティーを飲み干して立ち上がった。

「よし。あんた明日バイトは」

「えっ? お休みだけど、どうして?」

 舞はカナに質問をした。

「今日、私んちに泊まっていくか?」

「えっ! いいの! でも私、服」

「あー安心して。一様新しく買ったもんがあるからそれあげる。それと、新作のゲームがあるんだ。それで遊びましょ」

 カナはそう言うと、舞がさらに笑顔になると抱きついた。

「やったー! ありがとうカナ! でもなんで急に?」

「お礼よ。お礼」

「お礼? 何のよ」

 舞は聞こうとしたが、カナは「早くいくわよ」と言って先に歩き出し、飲み終えて空になった缶を側にあったゴミ箱に捨てた。

 まだ中に入っていたのか、先ほどの捨てた自分の缶と入っていたのが音を響かせた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吹雪の悩み 羊丸 @hitsuji29

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ