第2話 お祖母ちゃんの容体
お祖母ちゃんは
ストレッチャーに乗せられたお祖母ちゃんは処置室に運び込まれ、リリコはその厚いドアを呆然と見つめる。
「……お祖母ちゃん」
リリコが呟くと、若大将さんがそっと肩を抱いてくれた。
「リリコちゃん、座って待とう」
そう言って手近な長ソファに座らせてくれる。そして目の前にハンカチが差し出された。
「……え」
リリコが驚いて小さな声を漏らすと、若大将さんがリリコの顔を優しく拭ってくれた。
「涙で顔が濡れてしもとるで」
気付かなかった。私は泣いていたのか。リリコはされるがままに若大将さんに顔を拭かれた。
「大丈夫や。久実子さんは大丈夫や」
若大将さんは優しく「大丈夫」を繰り返し、
看護師さんが問診票を挟んだバインダーを持って来る。涙が止まらないリリコの代わりに、若大将さんが書いてくれた。
お祖母ちゃんに何かあったらどうしよう。リリコはただただ不安と恐怖に襲われる。
お祖父ちゃんの時もそうだった。心臓を抑えて倒れ込んだと思ったら、救急車で運ばれてそのまま帰らぬ人となった。
もしお祖母ちゃんもそうなってしまったら。頭の病気だってたくさんある。お祖母ちゃんはまだまだ元気だと思っていたし、お祖父ちゃんの様に太ってもいないから、生活習慣病の心配なんてしていなかった。
お祖父ちゃんお願い、まだお祖母ちゃんを連れて行かんといて。ううん、違う。どうかお祖母ちゃんを守って。お父さん、お母さん、お願い!
気付けばリリコは祈る様に胸元で手を組んでいた。
しばらくして、看護師さんに呼ばれる。
「
「はい」
若大将さんがリリコに代わって応えてくれる。
「診察室にどうぞ。先生から説明があります」
「はい。リリコちゃん、立てるか?」
リリコは小さく頷くと、手の甲で涙を拭いてふらりと立ち上がる。それを若大将さんが支えてくれた。
看護師さんに案内されて処置室の隣の診察室に入ると、中は無人だった。だがすぐに奥のドアから白衣の男性医師が顔を出した。
「すいません、お待たせしました」
丁寧な物腰の若い先生だ。穏やかな口調にリリコは少しほっとする。
「どうぞお掛けください」
若大将さんがリリコを丸椅子に掛けさせてくれ、若大将さんはリリコの後ろに立った。リリコはつい前のめりになってしまう。
「……あの、お祖母ちゃんは」
リリコが
「まず、お生命は大丈夫ですよ。今は点滴をして眠ってはります。加島さん、お婆ちゃんは貧血です」
思いもよらぬ病名が出て来て、リリコは一瞬呆気にとられる。
「貧血、ですか? 普段は元気で、でもさっきはあんなにしんどそうで」
「もしかしたらですけど、症状が軽くて気付けへんかったところに、一時的に悪化してしもうたのかも知れませんね。検査をしたところ、お婆ちゃんは
「やっぱり病気なんですか?」
リリコはまた不安になる。
「そこまでではありませんので安心してくださいね。お歳を召すと、どうしても腎臓の働きが悪うなってしまうんです。腎臓からはエリスロポエチンという成分が
「はい。軽い
「じゃあ目眩に慣れてへんで、余計にしんどかったんかも知れませんね。確かにお婆ちゃんは腎臓機能低下による貧血なんですけども、そう重いもんでは無いんです。心臓への負担もそう多くありませんでした。なのでエリスロポエチン
先生にそう言われ、リリコは一気に力が抜けてしまう。口を閉じるのも忘れたままふらっと後ろに倒れ掛けると、若大将さんが「おっと」と支えてくれた。リリコは慌てて「ごめんなさい」と上半身に力を入れる。
「あの、じゃあ入院とか手術とか、そういうのは」
「ありませんよ。今日は念のため一泊してもろうた方がええかなと思いますけど、明日の昼前には退院できますから」
笑顔の先生にそう言われ、リリコは再び目を潤ませる。
「良かったっ……っ」
そう声を詰まらせた。リリコは両手で顔を覆い、先生の前だと言うのに、はらはらと落ちる涙が止められない。若大将さんが優しく背中を
「せやから安心してくださいね。お婆ちゃん今は眠ってますけど、目が覚めたら普通にお話しもできるはずですから。点滴にお薬入れてますんでね。もう今は一般病棟に移ってるはずです。看護師に案内してもろてください」
「……はいっ」
リリコはぐしゃぐしゃになった顔を手の甲で拭った。
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