大阪もんで和やかごはんを

山いい奈

プロローグ

プロローグ

 20歳になって間も無い姫島ひめじまリリコの両親は、リリコが物心つく前に揃って他界していた。保育園に預けたリリコを、仕事を終えた両親が迎えに行く途中での交通事故だった。


 それからは母方の祖父母が親代わりだった。父方の祖父母とどちらが引き取るかの話し合いが行われたそうなのだが、歳若い方が良いだろうと母方に決まったのだ。


 父と母は歳の差が10もあり、また母は若くして結婚したので、母方の祖父母は父方より15歳ほど若かった。


 リリコが祖父母と暮らすことになったのは、母も育った祖父母の家、加島かしま家。祖父母の結婚時に建てたこじんまりとした一戸建てだ。母はひとり娘だったので、裏庭付き3LDKの広さで充分だった。


 住宅地の駅寄りの端っこで、区画の角なので立地がとても良い。駅に行ったり買い物に出たりもとても便利なのだった。


 リリコの部屋はかつて母の部屋だったところだ。母は結婚して家を出る時に、いさぎよくも家具を含めた荷物の全てを持って出たり処分したりしたので、部屋には何も残されていなかった。なのでリリコの家具はいちから揃えられた。


 リリコがその部屋を使うことになったのは、小学校に上がったタイミング。祖父母に挟まれて手を繋ぎながら家具屋に連れて行ってもらい、リリコ好みの勉強机とベッド、本棚などを揃えてもらった。


 リリコは覚えていないのだが、当初は両親の不在に泣き通したりもしただろう。幼くとも2度と両親に会えなくなったことは判ったのだと思う。


 幼い子どもにとって親は絶対の存在である。それがうしなわれることを、きっと野生とも言える本能が感じ取るのだ。


 が、幸いにも幼かったリリコの悲しみはそう長く無かった。それよりも祖父母の気落ちの方が酷かったはずだ。一人娘を亡くした祖父母の辛さは、想像を遥かに超えるものだ。


 なのに祖父母はリリコに寄り添ってくれて、たくさんの愛情を注いでくれた。特に祖母は賑やかなのが好きで、いつも明るい家庭だった。


 祖父母が孫に甘くなるというのは多くあるのだろうが、親代わりとなった祖父母はリリコをきちんと育ててくれた。


 良いことは「良かったなぁ」「凄いねぇ」と褒めてくれ、悪いことは「あかんで」と叱ってくれる。リリコのことをちゃんと考えてくれたのだ。


 リリコはそうして祖父母に暖かくはぐくまれた。そして高校を卒業したリリコは、少しでも早く祖父母に安心して欲しいと、小さな建築事務所に事務員として就職したのである。


 祖父母はまだまだ元気で、年寄りらしく軽い不調はあるものの、「腰が痛いわぁ」なんて言いながら笑って暮らしていた。


 だが思いもよらぬことは突如襲って来るものである。リリコが就職して間も無く、祖父が逝去せいきょしてしまった。心不全だった。


 祖父は確かにふくよかな体型で、生活習慣病が心配されてはいたが、健康診断でもそう深刻な結果が出たことは無かった。それは本当に突然のことだったのだ。


 よく行き来していた父方の祖父母や、父の弟一家が駆け付けてくれ、寄り添ってただ泣くことしかできなかった祖母とリリコの力になってくれた。


 お通夜や葬儀が慌ただしく終わり、家に祖母とリリコふたりきりになると、辛さや悲しさがのしかかって来る。


 食欲が落ち、家が荒れ、体調を崩しがちになり、顔を上げることが難しくなっていた。


 それでもリリコと祖母は互いに支え合い、励まし合い慰め合って、どうにか心を浮かび上がらせることができた。


 それは途方も無い日々だった。それでもリリコと祖母は涙を浮かべながらも乗り越えたのだった。




 このお話は、そんなリリコと祖母の新しい縁と、何気無くも優しい日常とごはんの物語である。

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