電脳のグリモワール 〜あ、俺転生したら魔導書になったけど、質問ある?〜

左右ヨシハル

00ページ目 "再起動"



俺、坂木さかき尊人たかと(24歳)は絶賛、残業中だ。


日々の激務に追われて趣味であった格闘技すらここ数ヶ月やっていない。

小学生の時から毎日やっていたのに社会人になった瞬間、全く意欲が無くなってしまった。


まあその格闘技のせいで、全く勉強せずにFラン大学を卒業してこうしてブラック企業で働いてるわけですけどね。


俺はエナジードリンクを一気飲みをしてパソコンと睨み合う。


時間は12時を回りかけていた。




一方その頃、魔王城では……



「フゥフゥ……ここからだ!!」

勇者 アレスターは口に溜まった血を床に叩きつける様に吐き出した。


「……もう終わりだ。努力だけでは超えられない壁というものがあるのだよ」

魔王 エイルガムは不敵な笑みを浮かべた。


エイルガムが指先をアレスターに向ける。


指先に魔力が溜まっていく……


「最後の足掻きを見せてくれよ!!」





「冷た!」

俺は振り返った。


そこには長い黒髪を無造作に後ろで止めた西条先輩が缶コーヒーを持っていた。


本名 西条シズカ 

この激務と残業の砂漠に唯一残されたオアシス。

このオアシスにさえここまで仕事をさせる課長にハイキックを喰らわせたい。


「今回は私の勝ちだね」

西条先輩は缶コーヒーを俺の机に置くと隣の椅子に腰を下ろした。

「何がですか?」

「ん〜?仕事だよ仕事。私の方が早く終わった」

「確かに……自分の負けです」

西条先輩は微笑んで缶コーヒーを飲み始めた。

帰る様子は全くない。



時計を確認すると1時20分ちょっと。

俺は唾液を飲み込んだ。

俺は賭けに出ていたのだ。


残業が彼女と俺だけそして残業中に彼女が俺に話しかけてくれる。


この条件が揃った時、俺は西条先輩に告白すると!!

そう決めていたのだ!!


警備のおじさんも家族サービスですぐに帰ってこの会社には俺と先輩だけ……


根性がない俺は何処に誘い出すとか花束を渡しながらとかそんな事は出来ない。

こんな条件の時でしか先輩に思いすら伝えられない……


だけど!だけど!条件は揃った……後は実行するだけ…


「坂木くん?さっきから静かだけどコーヒー飲まないの?」


俺は深呼吸して立ち上がった。


「わぁ!どうしたの?いきなり」

先輩の驚いてる顔を見て一瞬、怯むがここを逃したらもう二度目はない!!


「お、俺!せ、せ、先輩のことが!!」

俺は体を45度に曲げた。

「うん」

西条シズカは彼の皺になっているシャツを見ながら続きを待った。




またまた魔王城では



「さらばだ!!勇者よ!!」

エイルガムは指先に溜まった魔力をアレスターに向かって放った。


アレスターはニヤリと笑った。


「"覚醒エボルブ"!!!」


アレスターの目の前に空間の歪みが生じた。


そしてその歪みは盾の様になっていく。


「な、なんだと!"超次元"のスキルだと!」

「俺にはアンタの魔力を受けれるほどもう力は残ってねぇ──だったら多次元にアンタの魔力を飛ばさしてもらうぜ!」


エイルガムの魔力は歪みの盾に吸い込まれていった。


「さぁ!!ここでお前は排除デリートだ!!」


勇者は瑠璃色に輝く聖剣を魔王に向けた。





女神の神殿 転生の間


「ずっと好きでした!!付き合ってください!!!」


「へえええええ!!私!私でいいの!?」

女神は口元を抑えて体をクネクネし始めた。

「で、でもね?私は一応、神様だし……仕事場ではそういうことはしないって決めてるの」


そ、そうだよな……仕事とプライベートは違うよな……

それに神様だもんな…


ん?神様!?


俺は顔を上げた。


「え!えええ!!だ、誰ですか!?」


ちょ……え?い、一体何が起こってるんだ?

俺、今まで職場にいたよな?


俺は周りを見渡した。

まるでゲームに出てくる神殿みたいだな……

じゃなくて!何がどうなってるんだ?


「え?……ああそうだよね…私な訳ないよね」

女神は体育座りをし始めた。


「いやあのごめんなさい。違うんですよ。ちょっと今混乱しててあのここはどこなんですか?」

「……ここは転生の間だよ…」

「転生?」


やばいよやばいよ。

意味がわからないよ。

ついさっきまでっていうか瞬きの合間だったよ!?

あと転生って……俺死んだってこと?

嘘でしょ?いや夢か?夢なんだろ!


俺は頬をつねるがちゃんと痛かった。


これは夢じゃない!


「あのーすみません」


女神は体育座りをしながら顔を埋めている。



あ、そうか俺、西条先輩に告白しようとして……間違えてこの金髪の人に告白しちゃったのか。


俺は改めて体育座りしている金髪の女性を見つめる。


すげえドレスだな。真っ白だ。

まるでウェディングドレスみたいだな。


そんな事よりここから抜け出す方法、教えてもらわなきゃ!


「あのちょっとごめんなさい聞きたい事がありすぎるんですけど……」


女神は顔を上げた。


「何ですか?ちょっとほっといて下さい」

「いやあの今回の告白の件は謝ります。俺、違う人に告白しようとして……」


そうだ!西条先輩!!

彼女もここに?


「あの!西条シズカって人来ませんでしたか?」

「………守秘義務がありますのですいませんね」



まずいなー何でこんなことになってしまったんだ…

てかこの人、誰なんだ?


あと俺ちゃっかり断られてるよな。

まずはこの人をどうにかしないと先に進めないぞ。

んーよし!嘘告戦法でここを切り抜けるしかない!



「いやほら俺、断られたじゃないですか?だから嘘ついて違う人に告白したって言ったんです……すいません」


女神は突然、立ち上がった。


「あ、そういう事だったんですね!なんだ〜もう〜」

「すいません本当に」


胸が痛むが仕方ない。

これで一応切り抜けられたか?


「それで……ここは?」

「ここはですね!転生の間なんですよ!あなたは残念ながらお亡くなりになってしまったんです」

「何でいきなり?」


女神は悲しそうな顔をした。

「あなたがいた世界とは違う次元……異世界での戦いに巻き込まれてしまって……」

「そんな……」

「で、でも!安心してください!ここが転生の間って事はあなたは生まれ変われるんですよ!」

女神は俺に指を差す。



何となく本当に何となくだけど分かってきた。

俺は異世界の戦いに巻き込まれて死んだって事か…それで転生できると…

本当に異世界ってあるのかよ!

そっちの方が驚きだ。


「あ、そうそう転生って言っても今のあなたの記憶はありますからね!安心してください!」


んーならいいか。次はちゃんと勉強して!

いい大学に行って一流企業に就職するぞ!!


「なら全然いいですよ。今の記憶が残ったまま転生できるなんて最高ですよ……あ、でもやっぱり西条先輩のことは?」


女神は手を合わせた。


「すいません!本当に守秘義務で話せないんですよ」

「そうですか……分かりました…」

「あのーじゃあそろそろ転生いいですか?ほら私も告白断ったしあんまりいると…ね?」


え?ああーそうだ。そう言うことにしたんだ。

名前とか聞きたいけど無理だよな〜

せっかく転生してくれるって言うし絶対、女神だし。

名前知らずに告白したとかやばいし。


ここは何も聞かずに転生してもらおう!


「お願いします!!」

「いきますよ!!」


女神が俺に手をかざすと俺の下に白の魔法陣が出現した。


「おお!!」


魔法陣が光り出す。


「では!いい異世界ライフを!!」

「え?ちょっと!!まっ……」


坂木尊人は魔法陣に吸い込まれて消えていった。


「あれ?今なんか言ってた?んーまあいいか」

女神は坂木尊人の顔を思い浮かべる。

「まあちょっとぐらい手助けしてもバレないよね」

そう言って女神は魔法陣を触った。



こうして坂木尊人の人生は幕を閉じた。


そして坂木尊人の新しい人間としての!!

いや魔導書グリモワールとしての生活が始まる!!!



特異技能ユニークスキル "読書家リーディング魔導士ソーサラー"】


特異技能ユニークスキル "電脳デジタル魔導士ソーサラー"】



そして新しく魔法陣に書き足された。


特異技能ユニークスキル "女神"】

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