第167話 勇者ショーズィ

 将司はその線に手をかけ、ぐいと無理やり広げた。すると少しずつその線は裂け目となって広がり、そこからは祭壇の間が見えている。


「ニコラさん!」


 邪神に詰め寄られているニコラの姿を見た将司はその裂け目に体をねじ込む。すると将司はあっさりと祭壇に戻ってきた。


「この!」


 将司は一瞬にして邪神の背後に近づくと、その首を目掛けて剣を一閃した。邪神は反応することすらできず、その首は宙を舞った。


 頭部を失った体は力なくその場に崩れ落ちる。


「あら? あらら?」


 宙を舞っていた邪神の生首だが、しばらくすると数メートルの高さで静止した。


「おかしいわね。ちゃんと殺したはずなのにどうして生きてるのかしら?」


 邪神は不思議そうに将司の様子を観察する。


「まあいいわ。こうしてここに来たってことは、もう一回殺されたいのかしら?」


 邪神は挑発するかのように不敵な笑みを浮かべた。


「何言ってるんだ。あの世界の狭間じゃ死なないんだろ?」

「……」

「それに、この世界でお前の力は俺には通じにくい。だからわざわざ世界の狭間に連れ込んだ。そうだろう?」

「っ!」


 邪神は一気に険しい表情になった。


「お前は魂を司る神。だが俺は異世界から来た。だからお前は俺の魂に干渉できないんだ」

「……だからなんだっていうの? 戦って勝てないことは分かっているでしょう?」

「そうでもないさ。試してみるか?」

「あら、自信あるのね。若気の至りってやつかしら?」


 邪神はそう言うと、倒れていた体がむくりと起き上がった。そして宙を舞っていた頭を掴んで首の上に載せる。


「さあて、今度は好きなあの子の姿じゃないけど許してね」


 邪神がそう言うと、次の瞬間には将司の懐に潜り込んでいた。だが将司は飛び込んできた邪神にカウンターの形で剣を横に一閃する。


 将司の一撃は邪神の胴体に命中し、上半身と下半身が真っ二つに分かれた。


「え?」


 邪神は自分が何をされたか認識できていないようだ。下半身は床に倒れており、上半身は空中に浮いているもののその表情はどこか呆然としている。


「やはりここでは再生できないようだな」


 将司はそう言うと青い炎を放つ。すると邪神の下半身は一瞬にして灰となった。


「なっ!?」

「こうすればもう悪さはできないだろう! 次はお前だ!」


 将司は空中に浮かぶ上半身からその両腕を切り落とし、灰へと変えた。


 続いて胸部を燃やし、最後に頭部を燃やした。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! 馬鹿な! この私がっ! なぜ短期間にこんな!」

「俺はホリーさんを守る! それだけだ!」

「そ、そんな……」


 その言葉を残して邪神の肉体はすべて灰となり、禍々しい飾りのついた赤い宝玉だけが燃え残ったのだった。


「やった……のか?」


 将司はじっとその宝玉を見る。


「おお、せやせや。ショーズィ、すごいやん! えらい魔力上がってへんか? どないしたんや?」

「俺、世界の狭間ってところに連れてかれたんです」

「世界の狭間? んー、要するにこの世界と他の世界の間っちゅうことか?」

「はい」

「ほんで?」

「そこで邪神に殺されかけたんですけど、金色のキラキラが見えて、それを掴んだんです。そうしたら怪我が治ってなんだか魔力も強くなって、それで思い出したんです」

「思い出した?」

「はい。教皇が、召喚された勇者は全員強い力を持っているって言っていたんです。でも、変じゃないですか。魔法なんかない世界で生まれ育った俺や宮間にあんな強い魔力があるなんて」

「せやな。つまりその金色のキラキラがショーズィに与えられた魔力の源だって思ったんやな?」

「はい。そうです。それでありったけのそれを吸収したんです」

「なるほどなぁ。それにしても金色のキラキラなんて、ホリーちゃんみたいやんな」

「あ、はい。そうですね」


 将司はそう言って恥ずかしそうに頬をかいた。するとニコラはニヤニヤしながら将司をからかう。


「まるでホリーちゃんへの愛のおかげで覚醒したみたいやなぁ」

「そ、それは……その、ホリーさんのことがあったからがんばれたってのはあります」

「ほほーん。ええなぁ。下僕がホンマもんの勇者になりおったなぁ」

「……そうですね。俺は召喚勇者のショーズィですから」

「ははは。でもホリーちゃん、競争率高いで?」

「……分かってますよ」


 将司は寂しそうにそう答えると、横たわるホリーにちらりと視線を向けた。


 するとなんと! 燃え残った禍々しい飾りと赤い宝玉がサークレットのような形となり、ホリーの頭部にしっかりとまっていた。


「ふふふ。油断大敵ね。神がこれくらいで死ぬわけないでしょう?」


 ホリーの額に輝く宝玉からこの世のものとは思えない恐ろしい声が聞こえてくる。


「ホリーさん!」

「ホリーちゃん!」

「もう遅いわ。あと少しでこの子は私に体を使ってほしいと願うわ。それで終わりよ」

「この!」


 将司が慌ててホリーからサークレットを外そうと手を伸ばす。


「あら? 無理矢理外したらこの子、死んじゃうわよ? 愛するお姫様を殺していいのかしら? 勇者ショーズィくん?」

「なっ……卑怯者め!」


 将司は悔しそうに顔をゆがめ、そう叫んだのだった。

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