第147話 雪山探索
あれからしばらく吹雪く日が続いたが、今日は久しぶりに天気がいい。
雪が積もって大変ではあるが、私たちはスノーシューを履いてホワイトホルンの南側の森を調べることにした。
といっても闇雲に探すわけではなく、赤い宝玉が落ちていた場所の周辺を探すつもりだ。
この宝玉だけが通ったというのであれば、より高いところから転がってきたはずだ。
あとは近づけばエルドレッド様はその存在を感知できるはずだし、私は通れる。
雪に埋もれて見つからないことだけが不安だが、このまま雪解けを待っているつもりはない。
一刻も早く聖導教会を止める必要があるのだ。
そんなわけで私たちは目的地へとやってきた。去年すべて燃やしてしまったため、高い木は一本も残っていない。
「殿下、このあたりです」
「ありがとうございます。この地形には私も見覚えがあります」
案内してくれたヘクターさんにエルドレッド様はそう答えた。私にはどこも一面の銀世界にしか見えないわけだが、二人はしっかりと場所を認識している。
「……転がってきたとすればあちらではないでしょうか?」
「そうですね。調べてみましょう」
そう言ってエルドレッド様とヘクターさんが緩斜面をゆっくりと登っていく。
私は二人を追いかけようとしてふとショーズィさんの視線に気付いた。
「あれ? どうしましたか?」
「あ、いえ、なんでもないです」
ショーズィさんはそう言っているが、少し顔が赤いような気がする。
「あれ? 風邪でもひきましたか? 顔が少し赤いですよ。ひき始めには――」
「大丈夫です! 大丈夫ですからっ!」
ショーズィさんは慌てて私から離れていく。
「はあ。でも風邪はひき始めにきちんとお薬を飲めば重症化しないですみますからね。症状が重くなる前にきちんと相談してください」
「はい! もちろんです!」
ショーズィさんは元気そうに見えるけれど、顔は少し赤いままだ。
ホワイトホルンに戻ったらお薬を調合してあげたほうがいいだろうか?
そんなことを考えつつもあちこち歩き回るが、それらしい場所はまるで見当たらなかった。
「おじいちゃんはどうやってあれだけで場所を見つけられたんだろう。お母さん……」
私はふとペンダントを胸元から出し、聖域の奇跡が宿った赤い宝玉をぼうっと眺める。
するとなんと! 何もしていないのに宝玉が淡い光を放った!
「えっ!?」
「ホリーさん!?」
「暴走やて? あれで暴走なんてありえへんはずやのに!」
エルドレッド様とニコラさんがものすごい勢いで私のところへ来ると、淡い光を放つ宝玉をじっと観察する。
「暴走やないな。なんや? この現象は」
「ホリーさん、服の下に入れていたときにこの宝玉は光っていましたか?」
「いえ、取り出したら急に」
「なるほど。ではそのペンダントを服の上に出した状態で歩き回ってみてください」
「はい」
私は言われたとおりに歩き回り、エルドレッド様とニコラさんが間近で私のペンダントを確認している。
ちょっと異様な光景だし、エルドレッド様に胸元を凝視されるのは少し恥ずかしい。
それをなんとか押し殺して歩いていると、エルドレッド様がぼそりと呟いた。
「……共鳴現象?」
「ん? ああ! それや! こりゃ、おもろいな! ホリーちゃん、その宝玉が道標になるで。ホリーちゃんの魔力を入れてみるんや」
「え? え?」
ニコラさんが何を言っているのかさっぱりわからず困っていると、エルドレッド様が助け船を出してくれた。
「聖域の奇跡を込めたときと同じようにしてみてください」
「あ、はい。わかりました」
私はあのときと同じように聖域の奇跡を発動した。すると展開されるはずの聖域の奇跡は宝玉に吸い込まれ、さらに宝玉の発光が強くなる。
「そのまま続けてください」
「はい」
そうしているうちに光はどんどんと強くなり、そして突如一条の光を放った。その光は南にある山の中腹に向かって伸びている。
「あそこやな」
「そのようですね」
よく分からないが、二人には何かが分かったらしい。
「では行ってみましょう」
「はい」
こうして私たちはエルドレッド様とニコラさんに言われるがまま、光の指すほうへと雪道を歩いていくのだった。
◆◇◆
「ここですね」
「ああ、間違いなくこの下やな」
二人が指さした先の地面には私のペンダントから放たれる光が作った拳大のスポットがある。
「掘りましょう」
エルドレッド様は躊躇なくスポットの周囲の雪を魔法で取り除いていく。すると雪の下からは地下へと降りる階段が出てきた。
どれほどの長さがあるのかは分からないが、階段の先は真っ暗になっている。
「表面はタダの岩肌やな」
「ここにあるのは間違いなさそうですが」
エルドレッド様とニコラさんがそう言いながら階段の上あたりをペタペタと触っており、ニール兄さんはその様子を怪訝そうな目つきで見守っている。
あの階段が、見えていない?
「そこに入口があるんですか?」
「そうは見えないですが……」
ショーズィさんとヘクターさんにも見えていないようで、不思議そうに階段をじっと見つめている。
それを見守るマクシミリアンさんはなぜか自慢気な表情を浮かべている。
「あの、その階段が見えないんですか?」
「なんやて!?」
「階段なのですか?」
「はい」
「ホンマか! すごいやん! この機構はあたしにもさっぱり分からへんな! で、どないしたら通れるんや?」
「えっと……」
「ソフィア陛下はワシとグラン先生の手を握ってくださると通ることができましたな」
「ほな、ホリーちゃん。手ぇつなごか」
「は、はい」
私がおずおずと右手を差し出すと、ニコラさんはものすごい勢いでその手を取るのだった。
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