第33話 雪壁の回廊
ホワイトホルンの門を出ると、私たちを迎えてくれたのはなんと雪の壁だった。馬車一台がギリギリ通れる幅だけ除雪されており、その左右には何メートルもある雪の壁がそそり立っている。
これは、圧巻だ。街壁の上から見てこうなっていることは知っていたが、いざ実際に通るとなると迫力が違う。
こんなすごい景色が町のすぐ近くにあったなんて!
「すごい! ねえ! ニール兄さん! すごいね!」
「ああ、そいうえばホリーはこの時期に町を出るのは初めてだっけか」
「うん!」
「俺は除雪に駆り出されるからなぁ」
「あ、そっか。でも、こんなすごいなら去年も見に来れば良かったなぁ」
「そうだなぁ。でも毎年見られるんだから、また来年も見に来ればいいだろ?」
「うん」
私は頷いて、馬車の後ろから景色を眺めた。
真っ白な雪壁の向こうにホワイトホルンの門が小さく見えており、馬車が進むのに合わせて少しずつ遠ざかっていく。
「ホリー、御者台の横にも座れるぜ」
「え? ホント?」
「もちろん。おいで」
そう言って私はニール兄さんに連れられて馬車の前にやってきた。
「ウォーレンさん、ホリーが御者台から景色を見たいって」
「うん? ああ、いいよ。ほらおいで。クッションはそこに置いてあるのを自分で持ってきて」
ウォーレンさんはそう言って少し右に移動し、自分の左側を空けてくれた。
「ありがとうございます」
私はクッションを置き、ウォーレンさんの隣に座った。
「わぁ、すごい! すごいですね!」
そそりたつ雪壁に挟まれた道を栗毛の馬が力強く馬車を引いて歩いていく。
生まれて初めて見る光景に私の目は釘付けになった。
「ホリーちゃんは、シュワインベルグに行くのは初めてかい?」
「はい! 町を出るのも冬の準備とかのゾンビ退治くらいです」
「そうかい。それじゃあ初めての旅行かぁ。楽しい旅になるといいねぇ。シュワインベルグには何をしに行くんだい?」
「私たちはシュワインベルグに行くんじゃなくて、キエルナまで行くんです。去年のゾンビのときの件でちょっと呼ばれて」
「ああ、そうかそうか。ホリーちゃんは奇跡が使えるもんね」
「はい」
それから私はウォーレンさんと楽しくおしゃべりをしていると、徐々に道は険しくなってきた。くねくねと山肌を縫うように細い道が続き、私たちを山の上へ上へと導いていく。
「この調子なら、たぶんお昼くらいには着くと思うよ」
「はい。でもそれって、順調なんですか?」
「そうだね。かなり順調なほうかな。ゾンビも出なかったし、対向車も来なかったからね」
「対向車?」
「ああ、ほら。道幅が狭いから、すれ違いが大変なんだよ」
「え?」
言われてみればこの道はずっと馬車一台分の幅しかない。どうやってすれ違うんだろうか?
するとなんともちょうどいいタイミングで正面から馬車がやってきた。
「おっと、噂をすればってやつだね」
ウォーレンさんは馬車を止め、ランタンの魔道具を取り出した。ランタンに魔力を送って起動させ、赤く光るそれを高く掲げた。
すると向こうの馬車からは緑色の光が送られてきた。
「これからすれ違うからね。危ないから中で待っていてくれるかい?」
「はい」
私は言われて馬車の中に戻った。
しかし、どうやってすれ違うつもりなのだろうか?
わくわくしながら様子を見守っていると、ウォーレンさんは左右に迫る雪壁に魔法をかけた。
するとなんと雪壁が動き、目の前に氷の登り坂が出来上がった。
え? まさかこれを登ってすれ違うの?
どうやらそのまさかだったようで、ウォーレンさんは馬に指示を出してゆっくりと氷の道を登り始めた。
そして進んでは氷の道を作るのを繰り返し、百メートルほど進むと私たちの馬車は氷の壁の上にまで到達した。
「ホリーちゃん、ちょっと出ておいで」
「はい」
ウォーレンさんに招かれて私は再び御者台から顔を出した。すると周囲には絶景が広がっている。
「わあ、すごい!」
いつの間にかかなり高い場所まで来ていたようだ。遠くに見える真っ白な山並みも美しいが、雪を
「ほら、ホリーちゃん。向こうが下を通るよ」
言われて下を見てみると、たしかにウォーレンさんの作った氷の下を馬車が通っていく。
「すごい! すごいですね!」
「そうかい? 僕たちはいつもやっていることだからもう気にしていないけど、でもそんなに感動してもらえると嬉しいな」
「はい! ありがとうございます!」
するとウォーレンさんはとても満足そうな表情となった。
「じゃあ、また動くから馬車の中に戻ってくれるかい?」
「はい」
私は再び馬車の中に戻ると、ウォーレンさんの作業を見守る。
すると今度は登り坂ではなく平らな氷の道が作られ、その上をゆっくりと進んでいく。そうしていると元々が登り坂だったこともあり、やがて私たちを乗せた馬車は地面に降りてきた。
するとウォーレンさんは馬車を降りて後ろに回り、作った道を消滅させた。
「ねえ、ニール兄さん。すごいよね! あんな風に道を作るなんて」
「え? ああ、でも元々雪があるからな。あれくらいなら俺もできるよ」
ニール兄さんはそう言って胸を張る。
「そうなんだ。すごい!」
私がそう褒めると、ニール兄さんは満更でもなさそうな表情を浮かべている。
するとアレクシアさんのクスリという小さな笑い声が聞こえたので私がそちらを見ると、アレクシアさんは首を小さく横に振ったのだった。
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