第24話 宝玉の調査
壁の中に降りると、さっそくゾンビたちが襲い掛かってきた。
「ホリーさん、ここは私が」
思わず動こうとした私をエルドレッド様が制して前に出ると、右手をゾンビたちに向けて突き出した。
するとなんと、ゾンビたちの足元から青い火柱が立ち上る。
青い火柱に焼かれたゾンビは瞬く間に灰となって跡形もなく崩れ去った。
す、すごい。強力な魔力を持っている人だけが使える青い炎が出せるなんて!
ニール兄さんはもちろん、ヘクターさんですら青い炎は使えない。この町で一番魔力が強い町長のレベルになってようやく使えるかどうかだと聞いている。
私が感心して見ていると、エルドレッド様はこちらを振り返ってその整った顔で優しく微笑みかけてきた。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい」
これほどの魔力を持っているというのに紳士だなんて、エルドレッド様はまるで絵本の中から出てきた王子様のようだ。
「さあ、参りましょう。場所はどちらですか?」
「ご案内いたします」
ヘクターさんがそう答え、宝玉に向かって歩きだした。私もそれについて行こうとしたところで、足元の石に躓き、バランスを崩してしまった。
「あっ!?」
そのまま転んでしまうと思ったのだが、気が付けば私の体は誰かに抱きとめられていた。
「え……?」
「大丈夫ですか?」
こ、この声は、エルドレッド様!?
「足元が悪いのでお気をつけください」
エルドレッド様はあくまで紳士的に私を立たせてくれ、優しくそう声をかけてくれた。
「あ、あ、ありがとうございます」
私はなんとかそう返事をするが、あまりの恥ずかしさに私はエルドレッド様の顔を直視することができない。
まさか今日が初対面の男の人と密着してしまうなんて!
おじいちゃん以外の男の人と密着した経験なんて、たぶん小さいころのニール兄さんくらいだ。
「ホリーさん」
そんな私にエルドレッド様は優しく声をかけてくれ、目の前に手が差し出された。
あれ? この手は、どういうことだろう?
「エスコートします。ここはホリーさんのように美しいレディが歩くには不向きな場所でしたね」
「あ、その……」
今までは自分で歩いていたのにこのお姫様扱いはあまりにも恥ずかしすぎる。
だが先ほど不注意で転びそうになってしまったわけだし、エルドレッド様としては魔族の王子様として当然の行動をしているだけなのだろう。
であれば、私がここで恥ずかしいからという理由で断るのは失礼な気がする。
「はい。ありがとうございます」
私は顔から火が出そうなほどの恥ずかしさを我慢し、おずおずと左手を伸ばす。するとエルドレッド様は優しく私の手を握ってくれた。
分厚い手袋越しではあるものの、エルドレッド様の体温が伝わってくるような気がして、なんだか安心するような不思議な感覚を覚える。
「さあ、参りましょう」
「はい」
こうして私はエルドレッド様と手をつなぎ、赤い宝玉のある場所へと向かう。
歩きながら私はエルドレッド様にリードされ、色々なことを話した。
おじいちゃんのこと、奇跡のこと、お店のこと、さらには薬と奇跡を組み合わせた治療で町の人たちに恩返しをしたいということまで話してしまった。
「そうでしたか。お祖父様の人々を助けるという志はしっかりホリーさんの中に受け継がれているのですね。きっとお祖父様も天国で安心していらっしゃると思いますよ」
「はい!」
エルドレッド様は私の話を穏やかな表情で聞いてくれ、そのことでなぜか安心できた私はようやく笑顔でそう返事することができた。
するとエルドレッド様は微笑み返してくれた。
私はその笑顔に思わずドキッとしたが、そこにヘクターさんが声をかけてきた。
「殿下、到着しました。こちらの木のうろの中になります」
「ありがとうございます。それではホリーさん、お話はまた後ほど」
「はい」
そう言ってエルドレッド様は私の手を離し、あの宝玉のある木のほうへと歩いていってしまった。
そのことに私はよく分からない喪失感を覚える。
これは、なんなのだろう?
よく分からないまま、私はなんとなくエルドレッド様の様子を目で追っていた。
エルドレッド様はいきなり赤い宝玉を調べるのではなく、まずは木の周囲を調べるところから始めるようだ。
地面を調べ、それから焼け焦げた木の幹を調べると最後に赤い宝玉のあったうろの中を確認する。
「ヘクター殿、二歩下がってもらえますか? 魔法陣の痕跡がないかを確認します」
「かしこまりました」
ヘクターさんが二歩下がると、エルドレッド様はあちこちに魔力を流して何かをしている。
「どうやら魔法陣が使われたわけではないようですね」
そう呟いたエルドレッド様は木のうろの中を覗き込んだ。
それからしばらく何かをしていたが、不意にエルドレッド様が呟いた。
「……なるほど。そういうことですか」
「何かお分かりで?」
「はい。まずこれは魔道具であることは間違いありません」
「え? 魔道具なのですか? ということは……」
「はい。間違いなく人の手によって作られたものです。自然に発生したものではありません」
そう言ってエルドレッド様は木のうろに手を突っ込み、中から赤い宝玉を取り出した。
「うっ」
それが視界に入った瞬間背筋を悪寒が駆け抜け、私は思わずへたり込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
「……あ、そ、それが……」
エルドレッド様は心配そうに声をかけてくれるが、それどころではない。
「殿下、ホリーはその宝玉を見るとその様な反応になってしまうのです。どうか見えない場所にやってください」
「ああ、そうだったのですか。失礼いたしました」
そう言ってエルドレッド様は持っていた布で宝玉を覆い隠してくれ、ようやく私は不安と恐怖から解放されたのだった。
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