第11話 ロックアウト

 どうすれば安全にゾンビを退治できるかを思案していると、ザックスさんが声をかけてきた。


「ホリーちゃん、ちょっと手伝ってもらえるかい?」

「はい、ザックスさん。何をお手伝いすればいいんですか?」


 どうやらザックスさんには何かやりたいことがあるようだ。


「これから町会館を急いで改築するから、その間だけ奇跡で守ってくれないかい?」

「改築ですか?」

「そうだよ。このままじゃゾンビに入られて、またさっきみたいなことになりかねないからね」

「今やるんですか?」

「そうだよ。ホリーちゃんの奇跡で退治すれば、燃やすのと違ってゾンビが寄ってこないんだよね?」

「はい。そうですね」

「そっか。なら、やっぱりやるべきだね」

「え? 何をですか?」

「ゾンビが少ない今のうちに出入口を全部塞いでしまうんだ」

「え? それなら中から塞げば外に出なくていいんじゃないですか?」

「うーん、そうもいかないんだよ。最後の仕上げ加工をするときって、裏側をきっちり固くするのって結構難しいんだ。それに外側のほうが硬い素材を使って建てているからね。だから強い壁を作りやすいんだ」


 何を言っているのかいまいちよく分からないが、大工であるザックスさんがそう言うならきっとそうに違いない。


「そうなんですね。でもそうしたら逃げ場が無くなっちゃいませんか?」

「それはそうだね。だけど町の中に入られたってことは、もう逃げ場はないってことだと思うんだよ」

「たしかに……」

「だからゾンビの少ない今のうちに、せめて一階の窓だけでも外から塞いでしまおうと思うんだ。あとはもう神様に祈るしかないね」

「わかりました」


 こうして私たちは避難していた他の大工さん、そして作業中の大工さんたちを護衛してくれるという有志の人たちと一緒に町会館の外へと向かう。


「あ゛ー」


 私たちが外に出るとすぐに、鹿のゾンビが私たちに向かってにじり寄ってきた。


「ホリーちゃん、任せたよ。窓を塞ぐのには一ヵ所につき大体一分くらいかかるからね」

「はい」


 ザックスさんたちは窓枠に手を突くと、すぐさま魔法を発動した。すると徐々に窓枠が変形し、少しずつ窓が建物と同じ石で埋められていく。


「ホリーちゃん、ゾンビはどうしたらいいんだい?」


 有志の一人がそう質問してきた。


「火は他のゾンビを引き寄せてしまうので使わないでください。なるべく近づかれないようにして、もし近づかれたら足を狙って動けなくしてください」

「ああ。任せてくれ」


 有志の人たちは協力して向かってくるゾンビに向かって突風を吹かせる。


 すると動きの鈍いゾンビたちは突然の風にバランスを崩し、その場で派手に転んだ。


「よしっ!」


 有志の人たちが小さくガッツポーズをした。


 こうやって近寄れないようにしておけばしばらくは大丈夫そうだ。


 そうこうしているうちに窓がすっかり塞がった。


「終わったよ。次に行こう」

「はい」


 こうして私たちはぐるりと一周し、すべての窓を塞いだ。


「こっちもいいぞー!」


 上のほうから声が聞こえ、ふと見上げてみるとなんと二階と三階の間の部分に大きなひさしのようなものが設置されていた。


「あれは?」

「あれはネズミ返しといってね。ネズミのゾンビが二階より上へ上がれないようにするんだ。本当は倉庫なんかに設置して生きているネズミなんかから穀物を守るためのものなんだけどね。でも生きてるネズミだって登れないんだから、ゾンビならもっと登れないよ」

「へえ、すごいですね。知りませんでした。あれ? 二階の窓はどうするんですか?」

「二階はそんなに来ないだろうからね。一階と違って内側からでも大丈夫だと思うよ。あとは入口だけだね」

「はい!」


 そうして町会館のエントランスのほうへと戻ってきた私たちが見たのは、大きな熊のゾンビとそれに追われて町会館へと走ってくる人の姿だった。


 その人はちらりとこちらを見たものの、私たちを無視してそのまま町会館へと駆け込んだ。そして勢いよく扉が閉じられる。


 熊のゾンビとの距離を考えるとまだまだ追いつかれるまでに余裕があるように見えるが、追いかけられていて冷静に判断する余裕がなかったのだろう。


 それから少しして、追いかけてきた熊のゾンビがそのまま扉に体当たりをした。


 ずちゃっという嫌な音と共に腐肉が扉にこびりつき、腐臭が周囲に漂い始める。


「うっ」


 気持ち悪さからか、誰かがうめき声を上げた。


 すると熊のゾンビはこちらに顔を向け、獲物がいると見るや否や私たちのほうへと向かってきた。


「ひっ」


 誰かが悲鳴を上げた。扉に激突して顔の崩れた熊のゾンビはなんというか、すごくホラーだ。


「ホリーちゃん!」

「はい。誰か、あいつを動けなくしてください!」

「あ、ああ」


 有志の一人が尖った石を作り出し、熊のゾンビに向けて飛ばした。それは熊のゾンビの肩口あたりに命中し、その部分の腐肉がはじけ飛ぶ。


「や、やった?」

「もっとです! 転ぶまでお願いします! 皆さんも!」

「ああ」

「わかった。あれくらいなら俺たちだって!」


 次々に石が放たれ、やがて熊のゾンビはバランスを崩して倒れた。


 私はすぐさま駆け寄り、浄化の奇跡を発動させた。金色の光に包まれ、熊のゾンビは瞬く間に灰となって消滅する。


 するとザックスさんが感心した様子で声をかけてきた。


「いやぁ、やっぱり奇跡ってすごいね」

「ありがとうございます。でも私、魔法は使えないですから、魔法を使えるザックスさんのほうがすごいと思いますよ」

「ないものねだりってやつかな」

「そうですね」


 そうして私たちの間にふっと緩い空気が流れる。


「おいおい。そんなことより早く入ろうぜ。ゾンビどもが……」


 有志の一人にそう言われてあたりを見回すと、向こうのほうからゾンビの群れがこちらにやってきているのが目に入った。


「そうでした。中に入りましょう。あ! ちょっと待ってくださいね」


 町会館の扉は熊のゾンビの腐肉で汚染されていたため、すぐさま扉を浄化する。


 そしてキレイになった扉を有志の人が開けようとしたのだが……。


「お、おい! どうなってんだ! 鍵を開けろ! ふざけるな!」

「え?」


 もしかして、締め出された?


 そんな!


 外で危険な作業をした私たちが締め出されるなんて!

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