第3話 どうやら波北 綾乃の家にやってきたみたいです
母さんから聞いた住所によると仕事場は自転車で約45分。徒歩と電車合わせて約60分。
中々に遠い場所だが、自動車、バイクを使えば20分程度で着く。
今から向かう個人宅には駐車場や駐輪場がないみたいだな。ないというのは客用の駐車場や駐輪場がないという意味だろう。
その為、仕事場から徒歩1分程度で着く総合病院に駐車する様に家主から言われているみたいだが――何で病院?
疑問に思っていても仕方ない。それが家主と母さんが交わした契約なのだったらそれに従うしかない。
ウチのマンションのバイク置き場に駐車してあるフルカウルバイク――YZF忍250。
コンビニバイトを頑張って頑張って頑張ってようやく買えた俺の愛車である。
メタリックブルーの渋くてカッコいいボディ!
少しだけハンドル位置が低い為、乗る時の姿勢はスポーティになり、まるでレーサー気分を味わえる爽快感!
メーターは全てデジタルでスピードやガソリン残量も見やすい!
250ccなので車検要らずで維持費がお得に!
更に駐車代は自転車と一緒でタダ!
最高だ……。
文句があるなら少し加速が遅いかなー。程度で、別に誰ともレースなんてしないので普段乗りなら何の文句もない。
バイト頑張って良かったー! 欲しい物が手に入った時、手に入った物を使う時、この瞬間の為にバイトを頑張ったんだ!
愛車の【忍たん】に鍵を差し込みエンジンをかける。この瞬間がたまらない!
ブロオオオオオオ! と唸る忍たんは「お! 今日は何処に行くんでぃ!? 何処へでも連れてってやるぜ! 旦那!」と言わんばかりのエンジン音を出してくれる。
デュヘヘヘ……。超カッコいい――。
「――はっ!」
ふと隣を見ると、5階に住んでいるおばちゃんに変な目で見られた。
あ、やばい……。変な奴を見る目で見られている。
普段は挨拶してくれる優しいおばちゃんが、何も言わずに原チャで走り去ってしまった――。
恐らくヤバイ奴認定されただうな……。
――ど、どうでも良いもん!
俺には忍たんがいるもん!
そう言いながらガソリンタンク辺りを撫でて、自分に言い聞かせながら俺も目的地に向けて出発したのであった。
♦︎
変な目で見られた事等忍たんと共に走る事で風と共に流れていった。
俺の中にあるのはバイクに乗っている爽快感と高揚感だけだ。
予定通り20分位のツーリングを終えて、指定された病院のバイク置き場に駐車する。
本当にここで良いのか? バイク置き場の看板には【1時間300円】の表記がされていた。
ここのバイク置き場は前輪にU字ロックみたいなものを付けるタイプの様だ。
U字ロックをした後に思う。
え? てか1時間300円て高くない? もしかしてこれ自己負担? まさかー。そんな事ないよなー。ないよな……? ないよ! 3時間清掃したら900円取られるぞ? これ時給何円だ? 仮に1000円だとしたらほぼ時給代じゃねーか! だからない……よな?
そんな不安と共に忍たんを残してバイク置き場を後にする――。
「――ここか?」
指定された場所はバイク置き場から徒歩1分掛からない程度の場所にある高層マンション。ここの最上階が仕事場である。
あ……。しまった……。マンションの最上階とは聞いていたが部屋番を聞いてなかったな。
どうしようか悩んでいると、しれっと母さんに渡されたカードキーを思い出す。
もしかしたらカードキーに部屋番が書いてあるのでは? と思い取り出して見るがそれらしい物は書いてなかった。
ふむ……。どうするか……。
少しだけ頭を使うと閃いた。
あ! 表札見れば良いんだわ!
難なくと解決してオートロックの扉をカードキーで開ける。
おお! 何かカードキーってカッコいいな。
何て思いながらエントランスに入りエレベーターを使う。
エレベーターがグングン上に行っている時に気が付いた。
そういや名前聞いてなかったな――。
――エレベーターが最上階に着いて母さんが部屋番を言わなかった理由が明確になる。
扉とインターホンが1つしかない。
いや、正確には非常階段用の扉があるが、このマンションの最上階を1人ないしは1組で使用しているのであろう。
とんだ金持ちだな。
だが、エレベーターを降りてマンションの廊下の窓から見える景色は正直微妙だ。
大都会なら100万ドルの景色を赤ワイングラスで飲みながら下民を見るかの如く優越感に浸れるのかもしれないがここは中核都市。
見える景色は駅とショッピングモールと奥の方に河川敷が見える。
あー、若干田舎だなぁ。
――さて、感想もほどほどに仕事に移るとしよう。
今までコンビニバイトしかした事ないので、俺に務まるか不安だが母さんの「大丈夫大丈夫。普通にやったらめっちゃ喜ばれるよ」との言葉を信じて仕事に挑もう。
挑む前に予め母さんがスマホに送ってくれた仕事内容メモを確認する。
仕事内容は【掃除、洗濯、晩ご飯の用意】だけみたいだ。
清掃だけではなく飯も作るの? まぁ良いけど。
でも、たったこれだけか。これなら余裕かもな。
なんて思いながら一応インターホンを押してみる。
いや、インターホンを押すなら下のオートロックの所から押せよってなるが、そもそも最上階に部屋が1個しかないなんて知らなかったんだ。許してくれ金持ちの人。
しかし、インターホンを押しても何も反応はない。
よくよく考えれば当然かもしれないな。
個人宅に清掃を依頼する人は、自分で清掃する時間が取れないから依頼する訳であって、自分が不在のうちに清掃してもらうってのがセオリーだろう。
芸能人とかもそういうのを頼んでいる人がいるとこの前テレビで見たな。
そんな訳で、インターホンを鳴らしても出ないと言うことは家主は仕事が忙しくて留守と――。
いや、普通の会社員でも働いている時間か。まだ夕方だし。
カードキーをキーロックにかざすとガシャンと言う音が鳴った。
鍵が開いたみたいなのでドアノブを掴みなんとなくゆっくりと開く。
「お邪魔しまーす」
知らない金持ちの家。
玄関は広く、ここだけで友達とパーティー出来そうな広さである。
脱税対策か何か知らないが、絵画や壺が玄関に置かれている。
潰したら終わりそうな値段だな。
序盤から高価な物に圧倒されたので慎重に家に入る。
だが意外にも廊下は短かかった。
すぐにリビングだろう扉を開く。
その扉は予想通りリビングの扉だったが、俺の斜め上を行くリビングの広さに俺は「ホテルかよ……」と溜息をついて呟いた。
なんちゅう広さだ……。
そりゃ最上階全てを使っての間取りだからこれ位にはなるんだろうな。
え? この家の人何者なの? 芸能人? 政治家? 医者? 科学者? 化け物?
一体どんな人物がこんな高級ホテルみたいな場所に住んでいるのか全く予想出来ない。
というか、母さんはどういった経緯でこんな所で働いているのだろうか?
「――っと……。ボーッとしてたら日が暮れるな。掃除掃除――っと」
掃除道具はこの家の物を使って良いらしい。
しかし、これだけの金持ちだ、一体どんな掃除道具を持っている事やら。
超高級掃除機に超高級雑巾。はたまた超高級タワシ! みたいな物を少しばかり期待しつつ、潰したら母さんに何て言おうなんて思っていると、リビングの隅に置いてあるコードレス掃除機を見て「あ、家にある奴だ」と言葉が漏れてしまったと同時に、家主に親近感が湧く。
やはり金持ちでも庶民の物を持っていると好感度上がるよね。
母さんが家主に言ったのかな?
何て思いながら掃除を開始した――。
「――リビングの掃除で一苦労だな……」
自分の家の何倍もの時間が掛かってしまい、予定よりも時間が取られてしまう。
「あーっと……。ここで段取りミスだわ。先に洗濯機回しておけば良かったなりー」
そうしたら段取り良く掃除後に洗濯が終わり、外干しなり部屋干しなり乾燥機なりにつっこめたのに。
後悔しても遅いし、次に生かそう。
――次が俺にあるとは思えないけど。
そんな事を思いながら脱衣所へ向かう。
どうせ脱衣所も広いんでしょ?
なんて思いながら扉を開けると――。
「――え……」
時が止まるとはこの事だ――。
扉の先には濡れた髪をバスタオルで軽く拭いている素っ裸の少女が立っていた。
濡れた髪、風呂上りの火照った顔。
この超絶美少女顔には見覚えがある。
波北 綾乃だ。
彼女の顔を確認した後に俺の視線は小さな2つの山へと行ってしまう。その小ぶりで可愛い2つの山頂は綺麗で鮮やかなピンク色に染まっていた。
腹回りは綺麗なくびれが出来ており、その下にはモザイク必須のプライベートゾーンが丸見えであった。
一瞬で息子がテントを張ってしまう。そりゃ物凄いスピードでね。俺も健全な男子高校生だから健康な証だ。
しかしテントを張っている場合ではない。
今すぐにこの場を去らないと俺は通報されてしまうだろう。
だが身体が動かない! 金縛りか!? 何かの陰謀か!?
違う! 俺もいっぱしの雄なのだ! この場を動くと逆に後悔してしまうのではないだろうか? という心境に陥っているのである!
数秒後間見つめあった後に、少しだけ冷静になった俺の時縛りが解かれる。
「――ご、ごめっ!」
「――別に……。今日はアナタが来てくれると聞いている」
「ふぇ?」
自分でも情けない声が出た。
だって波北 綾乃の態度や声が平常であったから。
彼女は何事も無かったかの様に裸のまま、バスタオルで何処かを隠す事なく、そのまま脱衣所の洗面台でドライヤーを使い髪を乾かす。
ドライヤーは高級品なのか、ウチのドライヤーみたく、ブオオオオオオオという騒音ではなく、小さなフォォという音を出して主人である波北 綾乃の髪を乾かしていた。
いや、待てコイツは一体どういう神経をしているんだ?
普通なら通報だろ?
それなのに何故に無表情で風呂上りの仕上げにかかっているんだ?
「――いつまでそこにいるの? アナタは私の裸見ていたい?」
首を軽く傾げて問いただしてくる。
その問いに「はい!」何て答える勇気は持ち合わせてなかった。
「――お、お邪魔しました!」
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