かかと落とし令嬢はチートな踵で無双する~空前絶後のゴミスキルと追放されたけど、即死を楽しんでるだけで感謝されます。私の美しいフォームに魅せられ、国中の超絶優秀な人材が集まり実家は崩壊しました~

青空あかな

第1話:外れスキルと追放

「「キスククアさん! あなたにとって<かかと落とし>はどんな存在ですか!?」」


 右も左も大勢の人に囲まれている。

 誰も成しえなかった人類最大の敵“魔王”を討伐した私は、たくさんの記者や住民たちに囲まれていた。

 みな固唾を飲んで、私の答えを待っている。


「…………人生……ですかね」

「「おおお~! なんて深いんだ!」」


 猛スピードでメモる記者。

 歓喜のあまり熱い涙を流す住民。

 確かな勝利のムードがそこにはあった。


「今日をもって、あなたは全人類の救世主となりました!」

「今までどんな努力を積んでこられたのですか!?」

「ぜひ、<かかと落とし>の真髄を聞かせてください!」


 揉みくちゃにされながら、私はあの日のことを思い出していた。



□□□



「キスククア! 貴様は今日で追放とする! <かかと落とし>というゴミスキルなんぞ授かりおって! カカシトトー伯爵家の面汚しめ、恥を知れ!」


 教会に男の怒鳴り声が響きまくる。

 でも、私の心には何も響かなかった。

 何度も何度も経験しているので、もはやウンザリしているだけだ。


「女だから生後すぐ追い出すところをわざわざ育ててやったのに! 外れスキルを授かるとは何事だ! シャンタージ王国きっての名家に傷をつけるつもりか!?」

 

 さっきからやたらと怒鳴りつけてくるのは、カカシトトー家当主のレインソンス伯爵。

 というか、私の父親。

 残念なことに。

 赤くてギョロリとした性格の悪そうな目……悪人みたいな笑みが染みついた表情……灰色のくすんだ髪。

 その顔を見るだけで、今までされてきた辛い仕打ちが走馬灯のように思い浮かんだ。

 

 猛暑の真っ昼間、冬着を着せられ熱さに耐える訓練。

 真冬の雪が降る中、冷水に浸からされ寒さに耐える訓練。

 父親や執事長からゴツゴツした棒で殴られ、痛みに耐える訓練。


 どれもこれも、鍛錬の名を借りたいじめの日々だった。

 

「こんなゴミスキルを授かるとは可哀想に……ランクも最低のFで決まりですな」

「ほ、ほら、笑っては失礼ですぞ……」

「それにしても、<かかと落とし>とは……私も初めて聞きました」


 周りにいる神官たちも苦笑いが隠せていない。

 今日は16歳のスキル授与の日だった。

 私が授かったスキルは……まさかの<かかと落とし>。

 父上や神官たちより私自身が、なにこれ? ウソだろ、おい……と思っている。

 よりによって、<かかと落とし>って……。

 

「4人の優秀な兄たちに申し訳ないと思わないのか!? スキルがこんなにゴミなのは貴様だけだ!」

「……申し訳ございません」

「せめて、貴様が男だったらどうにかなったものを! あいつらが遠征に行っていなければ、全員で貴様の性根を叩き直すところだったぞ!」

 

 私には4人の兄がいる。

 と言っても、優しい兄は一人もおらず、父親と同じように意地悪をされる毎日だった。

 カカシトトー家はとにかく男尊女卑がひどい。

 武術で成り上がったからか、男性の地位の方が高いのだ。

 そのような家系で、私は唯一の令嬢として生まれてしまった。

 子どものときからずっと、女というだけで虐げられる生活だ。

 それでも認められようと地獄の訓練に耐えていたけど、全部意味がなかった。


「せめて、見た目がもう少し良ければ政略結婚の駒として使えたのだがな! 貴様は本当に役立たずだ! カカシトトー家の顔に泥を塗るつもりか!? このワシに謝れ!」

「……返す言葉もございません」


 なぜ私が謝らないといけないのだ、と思ったけど面倒になるので黙っておく。

 まぁ、亡くなった母親に似て黒髪黒目の地味顔なのは事実だし。


「貴様には心底呆れたぞ! さあ、さっさと出て行け! その顔など二度と見たくないわ!」

「……承知いたしました」


 男性の地位が高いカカシトトー家では、私に発言権など無い。

 逆らったところで、よりひどい扱いをされてしまうだろう。

 そそくさと教会を出て、あてもなく歩き出す。

 持っているものは古臭いドレスだけ。

 向こうの方に森が小さく見えていた。

 あの森を抜けたら、カカシトトー家の領地からも出られる。

 そうだ、まずは領地を離れよう。

 森へ歩きながらも、私はイライラしていた。


――というか、<かかと落とし>ってなんなんだ。あれでしょ? 足を思いっきり上げて、かかとをズドンと落とすヤツ。


 そんなのスキルでも何でもない。


「……クソッ! ふざけんなよ、神! もっと良いスキルをよこしやがれ!」


 貴族生活では考えられないような汚い言葉が出てくる。

 あまりにもひどい待遇の毎日で、私の心はやさぐれてしまったのだ。

 森へ入って少し歩いたら、木の影からひょこっとスライムが出てきた。

 こいつもFランクだ。

 私を見るとプルプル震えている。

 討伐される運命しかない彼らは、人間には怯えることが多い。


「……チィッ!」

『ピ、ピィィィ!?』

 

 思いっきり睨み付けたら、スライムは大慌てで逃げて行った。

 

――ちくしょうが、機嫌悪い時に出てくんなよな。


 さて、これからどうしようか。

 お金は全くないから、とりあえず日銭を稼がないとまずい。

 かと言って、今まで武術の訓練しかやってきてないし。

 となると、冒険者になるのが手っ取り早いかも。

 なんてことを、うんうんと考えているときだった。


「た、助けてええええー! 脳みそがすり潰されるうううー!」


 森の奥から女性の叫び声が聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る