第256話 悪人は、お見合い話をまとめる(後編)
「あの……はじめまして。コルネリアス・ヴァン・ロマリアと申します」
「……オリヴィア・フォン・ティルピッツです。こちらこそ、はじめまして」
「…………」
「…………」
お互い緊張しているのか。双方名乗りを上げただけで、会話が途切れた。だから、そんな二人を再起動させるために、ヒースは咳払いをした。特にコルネリアスに「何か気の利いたことを言え」と言わんばかりに。
しかし、ここで彼は言ったのは、「ここって、景色がとても綺麗ですね」と全く場違いなセリフだった。
「おい……ここって、一応牢屋だぞ?」
「あっ……」
我慢しきれずに飛び出したヒースの突っ込みに、コルネリアスは自分の失言に気がついたが、そんな二人のやり取りを見て、オリヴィアは笑った。
「オリヴィア嬢……」
「あっ!すみません。わたしったら、つい失礼な真似を……。どうかお許しください」
「いや……謝るには及ばないよ。わたしの方こそ、配慮が足らないことを申してしまったのだから。しかし……」
コルネリアスは、そこで一度話を切ってオリヴィアの顔をじっくりと見た。
「あ、あの……少し近いかと……」
「あ!これはすまない。だが……その恥じらう顔もよいが、やっぱり、あなたには笑顔が似合うな。どうだろう?アルデンホフ公とまたバカなことを言い合えば、もう一度見せてもらえるのかな?」
隣で何を勝手なことを言うのかと、呆れるヒースであったが、それを聞いてオリヴィアがまたさっきのように笑ったので、余計な口を挟まない。それから二人は自然と会話が弾み始めた。
そして、あとは当人同士で盛り上がってくれと、こっそり抜け出したヒースは、塔の入口でルドルフと会った。
「なんだ、来ていたのか」
「コルネリアス陛下のお付きでな。上手くいくようにと、馬車の中でオリヴィアのことを色々教えたのだが……」
上手く言っているのだろうかと、心配そうにヒースに訊ねた。
「まあ、大丈夫じゃないか。最初は緊張していたようだが、コルネリアスは頭の回転が良い男だ。一度、会話のきっかけを掴みさえすれば、何だかんだと言っても上手くやりこなすだろうよ。ただ……」
「ただ?」
「調子に乗り過ぎて、場合によってはそのまま合体することもあり得るかもしれぬのう」
そして、「花嫁が妊婦になっては締まらないな」とからかうようにヒースにルドルフに言った。おまえがいうなと。
「ははは、そういえばそうだったな」
最初の結婚式のとき、新婦であるエリザはすでに妊娠していたのだ。そのことを思い出して、ヒースは笑った。すると、そこにコルネリアスとオリヴィアが現れた。
「ん?どうした。ワシに気にせずに、もっと二人で盛り上がっても良いのだぞ?」
「なんだったら、これを使うか?」と『避妊具』をシレっとコルネリアスに渡そうとするが、顔を真っ赤にしたオリヴィアに脛を蹴られて、それは未遂に終わる。
「それで……本当の所、どうなったのだ?」
痛がるヒースの代わりにルドルフが訊ねると、「話はまとまった」とコルネリアスが答えた。
「謹慎期間が終わったのちに、手筈通りにリヒャルト殿下と養子縁組を成立させてください。その後、改めて我が国からオリヴィア王女殿下を王妃に迎えたいと願い出ることにします」
「承知した。その点は、このワシが遺漏なく進めることを約束しよう。それでだ……」
今度はヒースの方から、ヘレンを王妃に迎えるための段取りを確認する。こちらは、妊婦であり、出生した時点で生まれた子を嫡出子とするためには、オリヴィアのように時間をかけるわけにはいかなかった。
「わかっています。ヘレン様の件については、帰国後速やかに我が父上の養女に迎える手続きを行いましょう。ただ……流石に平民からいきなり王女というわけにもいきませぬので……」
「わかっている。すでに、前段階としてブレンツ子爵を伯爵に陞爵させた上で、その養女とする手筈となっておる。そちらの手続きをこのあとはすぐに行うこととしよう」
コルネリアスの帰国は明後日となっているが、ヒースは約束した。それまでには終わらせると。
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