第192話 悪人は、ある日森の中で浮気する
「それで、そなたが魔王ということか?」
遅れてやってきたその女は、隣で膝をついている平蜘蛛とは比較にならない程の魔力を漂わせていた。もちろん、ここで全ての手の内を明かすはずもないから、それゆえにこの女が魔王であると確信してヒースは訊ねる。
すると、女は頷いて名を名乗った。「魔王リリスですわ」と。
「実はね、前々からそこにいる平蜘蛛のアカネちゃんから、あなたのことは聞いていたのよ。何でも、前世では悪の限りを尽くしたんですって?」
クスクス笑いながら、リリスはヒースにそう話を続けた。だから、今回のことがなくてもいつかは会ってみたいと思っていたと。
「会ってどうするつもりだったのだ?」
「決まっているでしょ。あなたの子種を頂くのよ」
「子種?」
初対面でありながら、いきなり何を言い出すのかと呆れるヒースだが、リリスの説明は……つまり、次世代の魔王を極悪非道の最悪最恐の存在とする為に、ヒースの血を注入したいということだった。
「中々いないのよ。候補となる連中は、どいつもこいつも中途半端な悪でね。それに比べたら、あなたは神だろうが悪魔だろうが、気に食わなかったら容赦なく焼き払ったりするそうじゃない。アカネちゃんからその話を聞いて、思わず乳首がたっちゃったわ♡」
頬を染めながら、体をモジモジさせてヒースを誘惑するリリス。そして、ここまでされてしまえば、ヒースに断るという選択肢は存在しない。その身体から漂う妖艶な大人の香りに、股間の息子はスタンバイオッケーである。
「いいだろう。それでは、期待に応えて、美味しくいただくとするか」
そう答えて、ヒースは誘われるままに平蜘蛛(アカネ)をその場に残して先へと進んだ。するとそこには、準備がいいことに睦み合うためのテントが張られていた。
「それじゃ、早速だけど……始めてもいいかしら?」
恥ずかしそうに頬を染めてそう切り出したリリスに、ヒースはその唇を自らの唇で塞ぐことでその回答とした。舌を絡ませて大人の濃厚なキスをしながら、右手はお尻に伸ばしてその柔らかさをしっかりと堪能する。そして、そのあとは……ベッドに押し倒した。
「ふふふ、いけない娘だな。これはきっちりお仕置きをしなければな」
興奮したヒースは、そのまま手を止めることなく、リリスの薄いドレスを脱がして、まずは乳房を愛撫した。さらに、本当に乳首がたっているのを見るや、それに吸い付き舌で弄んだ。
「あ……あぁん!」
それゆえに、思わずリリスは声を漏らしてしまう。だが、一方で思惑通りに事が進んでいることに内心ほくそ笑んでいた。
(ふふふ、愚かな男よね。わたしがサキュバスであることを知らずに、こんな簡単な罠にはまるなんて)
実の所、リリスは【愛の従属契約】というスキルを持っている。これは、性交渉を持つことが発動の条件であるため、彼女自身も余程のことではない限り使ったりはしないが、使えば確実にその相手を奴隷のように支配することが可能という凶悪なものだった。
そして、そのスキルをヒースにかける理由は、単純に彼の実力を評価して、絶対裏切らない部下に仕立て上げたいからに他ならない。
「へ?あ、あーあん!だ、だめ……あ……」
しかし、リリスはもっとヒースのことを良く調べてから動くべきだったのかもしれない。本当に彼を相手にそのような幼稚な企てが通じるのかを……。
「さぁて、気持ちよくなったところで、そろそろおまえの下のお口に、ご褒美をあげようではないか」
「ひぃ!ちょ、ちょっと待って!そんな大きなモノ、は、入らな……あ、あーん!」
初めて味わう身を焦がすような快感によって、リリスは本来の目的をいつの間にか忘れて、ヒースに蹂躙された。
「だ、だめ……気持ち良過ぎて、もう何も考えられない……」
「そうか。そんなにワシのモノが気に入ったか」
「は、はい!だから、もっともっと突いてぇ!!!!」
いつの間にか日が暮れて、辺りは真っ暗になっても二人は何度も体を重ねた。そして、そんな二人の様子を平蜘蛛(アカネ)はテントの外で見守り、ため息を幾度となく吐いた。
「だから、止めときましょうといったのに……」
何しろ、ヒースこと松永久秀は性の伝道者である。サキュバスだろうが、選り好みしすぎて経験人数一桁程度のリリスなど、そもそもの話、敵う相手ではなかったのだ。
「あーん!い、いっくぅ!!!!」
だから、返り討ちにあい、逆にヒースの【愛の奴隷】に落ちるのは自然の流れだ。ゆえに、平蜘蛛(アカネ)はせめて魔族の繁栄のために、リリスが孕んでくれることを星に願うのだった。
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