第83話 悪人は、宰相の呼び出しを受ける
「なに!?公爵がワシに会いたいじゃと!」
昼休みにクラウディアに呼び出されたヒースは、彼女の口から突然、宰相たるローエンシュタイン公爵家に招待されて、目を丸くさせて驚いた。なぜなら、呼び出しを受ける覚えが全くなかったからだ。
すると、クラウディアが「ごめんなさい」といきなり頭を下げた。
「導師から頂いた……あの『
頬を染めてモジモジとしながら、申し訳なさそうにするその仕草は可愛かったが、内容が内容だけにヒースは頭を抱える。妹に変な性教育をされたら困るので、正しい知識を与えるために前世の記憶を引き出して書いたものを渡したのだが……それは悪手だったと気づく。
「つまり、公爵の手に渡ったということか……」
「たぶん……」
ヒースは「はぁ……」と思いっきりため息を吐いた。そして、きっと叱られるだろうなと思った。10歳の
「……ったく、あれほど読むときは周りに気を付けろと言っただろ。今更言っても仕方がないかもしれないけどな」
「ホント、ごめんなさい!でもね、あの本にはパパとママに訊いても教えてくれないことが全部書いてたのよ!夢中にならないわけないじゃない!!」
クラウディアは目を輝かせて、ヒースにあの本のすばらしさを熱く語った。そして、願わくば少し実践できないかとウットリとした目をして、ヒースの股間を見つめる。美味しそうな獲物を見るように。
「馬鹿者。少なくともあと5年は早いわ!」
「あいたっ!」
無防備となった額にデコピンをされて、クラウディアは少し涙目で弾かれた場所を押さえた。
「むぅ……今のは痛かったわよ。何よ、導師のケチ!減るもんじゃないんだから、いいじゃない。ちょっとくらい味見させてくれても!」
「いいわけあるか!そもそも、おまえはハインリッヒの婚約者だろうが。裏切るつもりか!?」
裏切りについては人にとやかく言える筋合いを持たないのに、ヒースは彼女を叱るように言った。いくらなんでも、それはないんじゃないかと。
そして、やはりこの少女の性教育はかなりいびつなモノになっていると理解して、自分には手に負えないと悟る。『導師』と呼んで慕ってくれるのは嬉しいが、彼女に相応しい教師に任せようと決意した。
「エリザ」
「お呼びでしょうか、ヒース様」
「げっ……」
さっきまで何もなかった空間に忽然と現れたヒースの正妻。そんな彼女の姿を見て、クラウディアの顔が引きつった。何しろたった今、彼女の婚約者を誘惑していたのだから、未遂に終わったとはいえ気まずさはMAXだった。
しかし、そんなクラウディアの意志を確認することなく、ヒースは話を進めた。
「なあ、エリザ。この子に正しい性の知識を教えてやってくれ。このままだと、いずれこの国の王家がどこの馬の骨かわからぬものの血統に乗っ取られかねぬからな」
だから、貞操観念をきっちり教え込んでやって欲しいとヒースは言った。しかし、エリザはからかうように言う。
「本当にそれでよろしいので?王太子の婚約者を寝取るチャンスなのでは。目覚めたヤツにヒース様のお種を宿して、お腹を大きくした婚約者の姿を見せてやるのも一興かと……」
「い、いや……流石にそれは可哀想だろ。ワシは自分が善人だとは思わぬが……そこまで追い詰めるつもりは全くなくてだな……」
からかわれているのは承知の上で、ヒースは言った。そこまで鬼畜ではないと。大体、追い詰め過ぎて自害でもされてしまえば、何のために立場を守ってやったのかわからなくなるのだ。正直な気持ちとして、王位なんぞは欲しくはない。
「だから、しっかりと厳しく教えてやってくれ。頼んだぞ」
「畏まりました」
エリザは今度こそ真面目に指令を承って、クラウディアの手を引きこの場から連れて行こうとする。しかし、諦めの悪いクラウディアは去り際に叫ぶ。
「5年後ですね!絶対、その頃には手を出してもらえるように頑張りますから!」
(いやいや、おまえはハインリッヒに手を出してもらいなさい!)
その声を聞いて、ヒースは心の中で突っ込みを入れた。そして、思う。彼女が王太子の婚約者でいいのかとも。今の様子から見て、どうみても心は自分の方にあるようなので、このままではまずいことになるのではないかと。
(それなら……ワシがもらうのもありなのか?)
15歳になったときのクラウディアの姿を想像して、ヒースは鼻の下を伸ばした。そして、いけないと思いつつも……その足でトイレに駆け込むのだった。
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