第74話 悪人は、王太子抹殺を決意する
「それじゃあ、なにか?そもそもの原因は、おまえの婚約者であるその糞王太子がワシの可愛い妹に懸想をして、言い寄ってきたということなんじゃな?」
「は、はい……それで、どういうことなのかとお話を伺おうと……」
ヒースたちの前で正座している5人組を代表して話すのは、主犯格であるクラウディアという少女だ。宰相派の領袖たるローエンシュタイン公爵の婿であるクライスラー侯爵の娘というから、宰相から見れば孫娘だ。
だが、ヒースは誰であろうが、妹を虐める奴には容赦はしない。エリザも同様だ。一緒になって、連中を責め立てる。
「話を伺うだけなら、教室でもできたのでは?なぜ、こんな人気のない所に連れてくる必要があるのです?」
さっきまで泣き止まない彼女たちにオロオロしていたのが嘘のように、鋭く的確にエリザは問い詰めてくる。こんな所に連れてきたのだから、近寄らないように脅すなり、あるいは痛めつけて体でわからせようと考えていたのではないかと。そして、それは的外れな妄想ではない。
「け、決して、そのようなつもりは!教室では誰が聞いているかわかりませんから、ただそれだけのことで……」
だが、今の状況で本当のことを白状しようものなら、自分たちの身に危険が降り注ぐということは、子供である彼女たちでも気づいている。何しろ、教師でさえ関わり合いたくないと言って逃げる相手なのだ。家の爵位だとかは何の援けにはならない。
ゆえに、必死に弁明する。例え嘘であってもそれ以外には言いようがない。だから、これではいつまで経っても話は平行線のままだ。見かねたヒースは、仕方なく助け舟を出すことにした。
「まあ……エリザよ。終わったことはもうよいではないか。カリンも無事だったことだしな。だが……貴様ら、わかっておるよの。次にうちの妹に舐めた真似をしたらどうなるかってことは?」
要は、二度とこのようなことが起こらないようにと釘を刺して、今回は手打ちとする。その意図を理解して、エリザは追及を止めて、一方のクラウディアの方も誓いを立てる。
「そ、それはもう!け、決して、カーテローゼ様に無礼な真似は致しません!」
「ならいいよ。今回のことは、これで水に流そうじゃないか。次はないけど」
ここまで怖い思いをさせたのだから、それは口先ではないだろう。ヒースはそう判断し、それなら用は終わったから教室に戻っていいと告げる。5人は正座を止めて立ち上がるなり、一目散でこの場から走り去って行く。後には、ヒースとエリザ、そして、カリンの3人のみが残ることになった。
「それで……カリン。実際の話、王太子とはどうなんだ?」
連中が去ったことで、この問題の真相について訊ねるヒース。もし、カリンが本当にそいつのことが好きならば、試練を与えなければならないと思っていた。しかし……
「それがね……よくわからないのよ。教室に入ろうとしたら、いきなり手を握ってきて『今夜、僕の部屋で待ってるよ』って言われただけなのよ。新入生同士でカードゲームでもやるのかしらね?」
つまり、人数が足りないから呼ばれただけなのに、何でこんなことになったのだろうとカリンはため息交じりで告白した。どうやら、彼女にはまだその手の話は早いようだった。
「ほう……それは本当に意味が分からん話だな……」
だが、当然のことだが、ヒースは正しくその意味を理解している。そして、どのように殺そうかとその手段を模索していた。さらにいうと、エリザも。
「……ヒース様。そのような不届き者は、御手を煩わすまでもございません。今宵、寝込みを襲って、その首を玄関前の初代国王像の剣先に突き刺して御覧に入れますわ」
カリンに聞こえないように注意して、彼女はヒースに囁いた。そして、「それは良き案だ」として、ヒースは了承した。
「ん?二人ともどうしたの?」
「いやな。今日はこのまま学院を休んでどこかに行かないかと思ってな。カリンも教室に行き辛いだろう?」
「まあね……」
学院初日からおサボりとは褒められたことではないが、それでもさっきあんなことがあっただけに、教室には入り辛い。ゆえに、彼女は兄の提案に甘えることにした。
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