第22話 悪人は、父の実家のお家騒動を知る
「おっ!ヒースか!大きくなったなぁ!!」
そう言って、嬉しそうにしながらその老人は、ヒースに近づくとそのまま抱き上げた。
「覚えているか?お爺ちゃんだよ」
「……父上、前にあったのは、まだ赤子だった時ですよ?覚えているわけないでしょ」
「まあ、そりゃそうか!わははは!!!」
オットーの指摘に、祖父であるフリードリヒは大きな口を開けて笑っているが、生まれた頃からの記憶を全て持っているヒースは当然覚えていた。前に来たときは、股を開かされてアレをジロジロ見て「付いとるのぉ」と言ったから、小便を顔にかけてやったのだ。だが、それは口にはしない。
「おじい様なのですか!?はじめまして、ヒースです」
お会いできて光栄ですと、あくまで初対面を装う。いつもの天使の笑顔見せながら。
「おお、話には聞いていたが、かわいくて、しかもとても賢い子だのぉ。……しかし、一応聞いておくが……本当におまえの子か?」
「何を言っているのですか、父上。わたしの子じゃなければ誰の子だというのですか?」
「いやあ、これだけ賢いとなると、やはり王弟殿下の子ということは……」
「……父上。ヒースがいる前で、冗談でもそのようなことを言わないでいただきたい。学生時代にあったベティと殿下の噂話は、あくまで本命との関係を誤魔化すための方便だと教えたはずでしょう?」
オットーはこれまでヒースが見たことのないような不機嫌な顔をして、父親に言い返した。
「ああ、そうだったな。いやいや、悪いな。もちろん冗談だよ。許してくれ」
そして、この場にヒースがいる事を思い出したフリードリヒは、すぐに謝って話を強制的に打ち切った。こんな話を7歳の子に聞かせるべきではないことに気づいて。だが……
(確か……王弟殿下も魔法使いだったはずだ。しかも、ワシと同じ『火の魔法使い』だったと……。なるほどな。もしかしたら、その可能性もあるのか……)
どうやらその気遣いは最早手遅れの様で、ヒースは表面上見せる笑顔の裏側で、オットーが父親でないという可能性を考えていた。以前ロシェル司教との話で出た『王弟殿下の想い人』が自分の母親である場合もあり得るとして。
「……ところで、今日は如何されたのですか?」
前触れもなく、急に来るとはおかしいと思ったのか、オットーがその真意を訊ねた。すると、フリードリヒは急に真顔になって答えた。
「実はな……ジークハルトの具合があまりよくないのだ」
「ジーク兄さんが!?」
ジークハルトとは、フリードリヒの長男であり、オットーにとっては長兄にあたるリートミュラー侯爵家の跡取りである。その兄に異変が起きていると告げられて、オットーは思わず声を上げて驚いた。
「しかし……今年の春にお会いした時は、お変わりはなかったかと……」
「その後だよ。初めは、腹の具合が悪いというだけだったのだが、最近では食べ物を食べれないようになってな、さらに今では小便には血が混じっていると聞く。最早、ベッドからも起きれん状態で、あまり長くはないというのが医者の見立てだ」
「そうですか……」
オットーは肩を落として俯いた。何かと妾の子ということで虐めてくる次兄と三兄から守ってくれたのは、長兄であるジークハルトなのだ。そのことを思い出して涙ぐむ。だが、そんな父親の横でヒースは別のことを考えていた。
(どうやら、伯父上は砒素の毒を盛られたようだな……)
前世で邪魔者を始末するときによく使ったなぁと思い出しながら、ヒースは断じた。但し、症状から言えば、最早助かる見込みはないことも。
(問題は誰がやったかということだが……)
疑わしいのは、次兄であるパウルと三兄であるゲオルグだ。おそらくは、ジークハルトを殺して、侯爵家の跡取りに収まろうと考えての事だろう。そして、この二人も仲が悪く、ゲオルグにすれば、パウルが次期当主になるなどは受け入れられないだろう。
つまり、侯爵家のお家騒動はまだ第2幕が控えているということだ。次はこの二人が殺し合うことになるだろう。ヒースはそのことを思い、上手くやれば侯爵家の身代が転がり込んでくると、人知れずほくそ笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます