こもりのきりん

こもりきりん

第1話 占い

「この人は6と33か、33の数字の人は世界で活躍できる人になるのよ」

母はバターをたっぷり乗せた食パンをゆっくり頬張りながら、一人で深く納得しているのを見せつけるように、私の方をみた。

朝のワイドショーでは世界的に有名になった小説家の紹介をしていた。

悠美はムスッとした表情を一瞬見せたが、頭の中から湧き出る黒いもやを振り払うように深呼吸をした。

母がこだわっている数字は誕生日から計算ができるそうだ。母はこの占いにはまってから、私や父の数字はもちろんだが、誕生日を公開している有名人の数字の計算も2桁の勘定を数えるぐらいのスピードで終わらせていた。そこからの解説は、道ゆく人がせわしなく通り過ぎても全く気にせずに演説を続ける信念をもった人のように話す。父と私は毎回仕事に行く準備をしながら永遠と流れるラジオが自動でそばに来て言って聞かせる言葉を耳にいれなければならなかった。


 母の解説は長い時間を要するが、もう一つ時間を要するものがある。この占いの数字の解説をしている動画だ。この動画の1番の視聴者は母であろう。何時間も動画が写っている画面と顔の距離が変わらないことを見ているからはっきりと言いきれる。

母の数字は、5と33だ。飽きやすいが、没頭できるものを見つけたらとことん追求する人と聞いたことがある。それは私から見ても当たっているが、小説家を目指している悠美にとって今日という日ほど虫の居所が悪い日はなかった。

「占いはたまには悪くないけど、私の人生は占いで決められるほど単純じゃないのよ」悠美は力の入っていない空気のような塊ではきだした。

ここ何年も文学賞への応募やプラットホームで書き溜めた小説を無料で公開し続けているが、うんともすんとも言わない状態が続いていたからだ。

母はいつも言ってた。

「そういうのじゃなく、あなたは外国に縁があるお仕事が向いているのよ」と。

悠美は自分の不甲斐なさと、母から見た娘の像と占いで測られた発言が嫌いだったが、反発心から執筆活動に励むことができていた。

悠美は仕事を終え帰宅してからは文学賞に応募するために夜な夜な書き続ける生活を送っていた。体が重い日でも数分は執筆活動をしていたし、何も考えが浮かばない日もどうにか捻り出そうと唸る生活を繰り返していたが、とうとうその生活も最終を迎えた。昨日が10ヶ月かかった小説を文学賞へ送った日だったのだ。

そしてその日は、今まで心に押し込めていた疲労が体全身に行き渡り始めた日であった。


 それから半年後、私が家に帰ると母は嬉しそうな顔をして、明るい声で「おかえり」と私を迎えた。

「何かいいことあった?」

母は新しい世界を見たような顔で「新しい占いをみつけたの。よく当たるのよ。」と言った。悠美はその占いの説明が始まろうとしている台所の舞台をぬけて部屋へ向かった。父が帰ってきたらまた演説が始まるのだ。おそらく20時頃だろう。一緒に聞くしかないのだから今は新しい小説を書くことにした。

「ごはんよ」と母がいった。悠美が温かい湯気が立ち込めた台所へ入った途端、

「今日見つけた占いはね、誕生日から計算ができる星の占いなの。悠美の星はね、今年いい年になりそうよ。今まで続けてきたことが実る年なんだって。お父さんは注意する年って言われていたわ。銀色に注意しないといけないそうよ。」私と父はお互いに顔を見合わせ、無言で会話をした。

今まで続けてきたことといえば小説しかないじゃない。誕生日から計算された星によって実るのなら、その年を待っていればいいわけだから、世界中の人の夢や欲望も叶うのか。悠美はいつもの考えを口に出さずに頭の中で繰り返して飲み込んだ。


それから数ヶ月たって悠美の元へ通知が届いた。悠美の小説がノミネートされていた。

「ほら言ったじゃない。」母は誇らしげに言った。その後、母は占いの第一人者として世界で活躍した。






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