4-23 ヌシ

「せっかくだから、行く道のマップも作成しておくか」

「あっ、それなら私やります。このまま役に立たないのも申し訳ないし」


 ゼフの言葉に、ゲイルが手をあげた。


「そうか、それなら頼めるか? 後方確認はセインとサキの二人で、気が付いたことがあれば言ってくれ。先行は引き続き俺がする。基本的にはブルシュパーティの後を追うが、魔獣の出現状態によっては引き返す。いいな」


 先ほどの二股以降は、大した分かれ道はなく、たまに小部屋らしきものがあり、有用な発掘場所となりそうな場所をチェックしながら進んだ。


「この辺りは金鉱石ですね。上の階層より、採掘量は多そうです」

「はい、なるほど……書き終わりました」

「採掘調査もなしで、よくわかるな。たいしたもんだ」


 ツクの助言をもとに、セインは採掘ポイントをいくつか指さし、マップを書くゲイルに教えた。それを見ていたゼフが、感心したように頷いている。

 

 ――あ……そうか。普通は採掘して調査するものなんだな。ちょっとやりすぎたか。


 セインはマップ作りに夢中になり、ついつい調子に乗りすぎたらしい。調査チームしか採掘出来ないので、ツクの鑑定をフル活用してしまったのだ。

 ちなみに、小部屋では魔物の遭遇が何度かあったが、ゼフパーティのお陰で、事なきを得ていた。どうやらブルシュたちは、小部屋の先に道がない場合、調査はせずに他のルートを進んでいったようだ。

 マップ調査には、その辺もしっかり潰して行く必要があるが、おそらく彼らの狙いはヌシへの到達ルート一択のようだ。

 開拓チームを補佐する討伐パーティはいくつかあり、魔物の討伐数はもちろん、ヌシを倒すことは、追加報酬、ギルドポイントを著しく上昇させ、ランク昇格に貢献することになる。

 それだけではなく、ヌシを倒した者、またはパーティには、それにふさわしい二つ名が付くことがあるのだ。

 よって、討伐パーティにとって、手垢のついていないヌシへの到達ルートマップは、垂涎の的なのだ。


「この先、うっすら明るいな。慎重にすすめ、音を立てるなよ」


 口先に人差し指を立てて、ゼフが小声で注意を促す。どうやらゴールは近いらしい。

 新たなルートはそれほど深くはなく、下へ行くルートもなかった。あの広場の先に、おそらくヌシのテリトリーたるスペースへの通路がある感じなのだろう。

 そうして到着したそこは、まさに驚くべき光景だった。


「……緑色だ」


 捻りのない、見たままの感想をゲイルは口走った。

 岩の一部、もしくは半分以上が不透明だったり、透明だったりはするが、とにかく緑色だった。


「淡く、光っている。水晶じゃないな、なんだろう……」

『ふむ、ギョク……翡翠じゃな。そこかしこに転がっておるものは、たいして価値はなさそうじゃが、ものによってはかなりの代物もあるようじゃ』


 呆然と呟くセインに、ツクが補足した。


「あれを見ろ……」


 そしてゼフの指さす先に、言われるまでもなく全員の意識が向けられた。

 大きな翡翠の混じった岩石のような化け物が、身体を丸めて眠っていた。これまで遭遇してきた種類の魔物も、その周辺でくつろいでいる。

 そして、その手前には……。


「あっ、あの大剣……、それに赤いリュック」

「……そうか、見覚えがあるか」


 そこには折れた大剣、曲がった斧、粉々になったスタッフ、ズタボロの荷物の切れ端などが転がっていた。


「荷物、だけ?」


 そうセインが呟くと、ゲイルは「ひっ」と、まるでしゃっくりのような情けない声を上げた。

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