4-21 疑惑

「どうして……だって、私は資産を!」


 パニックになりかけているゲイルを、ゼフはとりあえず落ち着つかせようと、一旦話題を反らした。


「だいたい、なんでこんなところに一人で倒れてたんだ?」

「え? ……あ、そうですよね。私も、よく覚えてないんです。この道は、ジョナスンさん……あ、パーティの薬師さんで、聖魔を多少使える人なんですが、その方が見つけたんです。あの時は……そう、これくらいの石ころが転がって来たんですよ。なんと、壁の中から!」


 ゲイルは両手の人差し指と親指をつかって、こぶし大くらいの丸を作った。

 彼らが見つけた石と言うのは、おそらくハクが見つけた例のミスリル鉱石だろう。もっとも彼らには、あれがミスリルだとは気が付かなかったが。

 触ってみてもどこにも穴のないただの岩壁だったが、ジョナスンが穢れ払いを試したところ、入り口が開いたとのことだった。


「未開発のルートマップは高額で売れますからね。リーダーさんも大喜びでしたよ」


 戦闘員ではないゲイルは、当然マッピングを任されるものだと思ったが、なぜか道が二つに分かれたところまで来ると、荷物をすべて取り上げられパーティを二つに分けると言われた。


「捜索クエストの帰還予定日が迫ってきている。身軽にしてやるから、マップの調査を手伝ってくれ」


 そう言われて、ゲイルは素直に頷いた。なぜなら、マップを書くためボードを持ったペイジが後ろからついてきたからだ。後ろは任せろ、という彼の言葉にゲイルは手探りで進んでいったのだという。

 

「結局その道は、少し進んだだけで行き止まりだったんだけど……」


 話の途中で口ごもったゲイルに、ゼフが「それで?」と促したが、自信が無さげに首を傾げるばかりで明確な答えは引き出せなかった。そこからの記憶がはっきりしないというのだ。


「途中からひどく曖昧な感覚で、とにかくひたすら出口を探していた……ような気がします」


 入り口付近にまで戻っていたことから、出口を探していたのは本当なのだろう。もっとも、その頃には既に出口が塞がっており堂々巡りになっただろうけれど。

 そこまで聞いて、ゼフはちょっと大げさにため息をついた。


「……今回の仕事、じつはギルドからも依頼を受けていてな」


 ギルドマスターのギルバートとゼフは、長年パーティを組んでいた仲だった。

 すでに引退したギルバートとは違い、ゼフはあえてランクを落として現役ハンターを続けていた。ランクを落としたのは、現場で後進を育てるためでもあり、のんびりやりたいとの希望もあったとのことだ。

 そんなわけで、新人ハンターのトラブルに関して、ギルバートから個人的に依頼されたりもするのだ。


「初見詐欺、新人潰しなど、ブルシュとそのパーティメンバーには、その疑惑を掛けられている」

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