4-7 太陰

「その喋り方は、まさか……いや、でもその恰好?」

『あら、ようやく話す気になったのね、太陰。ですが、相変わらず無礼な物言いですね』


 ゆらの言葉でセインも確信した。知将とその名を知られた太陰。十二天将の中でも一番の年かさで、物知り、その分すこし変わり者ではあった。


「封印が解けた二人のうちの一人は、太陰だったか」

『お久しゅうございますな、主よ。ですが、まさかそのようなお可愛らしい姿に転生なされようとは』


 セリフの後には、人を喰ったような笑い声が聞こえる。姿は変われど、その人となりは以前と変わらないようだ。


『本当に失礼でございますよ、太陰』

「いいよ、ゆら。太陰はもとからそうだったじゃないか」


 かつては老女の姿だったはずが、なぜか今はすっかり幼女だった。セインが立ち上がると、少女のおかっぱ頭がすぐ目の下にあった。

 それほど身長の差がないことにちょっとだけ驚いて、改めて自分が小さな子供であったことをセインは思いだした。彼らと話していると、つい昔の調子に戻ってしまうようだ。


『前の世界では、それこそわしが世界の知識そのものじゃった。そんなわしが、こちらでは何も知らぬでは恥というもの。じゃがな、不思議なことに知らぬはずのモノの本質が分かるようなのじゃ』


 彼女は首を傾げていたが、セインはその能力に心当たりがあった。

 その能力とは、鑑定……すなわち世界そのものの知識である。

 誰もが持てるものではなく、当然ながらセインも持ってはいない。以前の太陰は何でもよく知っていたが、それは知識があるだけではなく、そういう能力も少なからずあったのかもしれない。

 こちらの世界では、それが能力として確立していて、類似した能力を持つ太陰がそれを得たのだろう。


「なるほどな……で、その姿はどうして?」

『これか? 深い意味はないのじゃが、そろそろ老婆の姿に飽きての、他のみなも姿を変えておるようじゃしな』


 ――それってコウキやハクのことを言ってるのかな? まあ、あいつらは少なくとも好きであの姿になったんじゃないと思うけど。


「……ご主人様。だ、大丈夫? どこか痛い、です?」


 少し離れたところで薬草を集めていたサキが、一人でジタバタと暴れているセインを心配してやってきた。


「ああ、ごめん大丈夫だ。そういえば、サキには彼らが見えないんだったね」


 彼らの姿はセイン以外には見えない。サキはともかく、他の人に見られたらおかしな人に思われてしまうかもしれない。もっと式の数が増えてくると、ますます気を付けていく必要がありそうだ。

 サキにもゆらのことは話していたので、ここにいる太陰のこともざっくりだが説明しておいた。とはいっても、目には見えぬものなので、本当の意味で理解しているかどうかはわからない。


 ――その辺は、追い追いだな。これからも憑依するような場面があるかもしれないし……。


 ということで、太陰にも名を与えた。

 彼女を指す言葉ではないが、太陰は月を表す言葉でもある。まんまではあるが、ツクと呼ぶことにした。

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