3-16 調査
ほんの数分で最下層へやってきた。
すでに広範囲にわたって穢れは祓っていたので、他の階層はすっとばしてまっすぐ降りてきたのだ。
「ボダンさんが言うには、この階層はまだそれほど広くないと言っていたけど」
最近掘り進めているという、入り口から一番遠い場所だ。濁ったガラスで作られた、さして明るくないランプの光が点々と足元を照らす中、ようやく少しひらけた場所に出た。
「なるほど、ここが最奥なのか……」
ランプの光だけは薄暗いので、コウキを手のひらに乗せて、辺りを照らしながらぐるりと見渡す。すると、削り取られた岩と土がこんもり山になっている付近に、人が倒れているのが見えた。
服装からして、間違いなくロッゾである。
『セイン様、気を付けてください。この辺りは、瘴気の気配がします』
「わかっている……これは、どこから湧いてるんだ」
先ほどコウキが祓ったばかりの穢れが、どこからともなく再びゆっくりと流れてきているのだ。
ロッゾの安否をすぐにでも確かめたいが、瘴気の流れをたどると、その張本人の近くから感じるので迂闊に駆けつけることができなかった。
「まさか、本当に
ロッゾに問題があるならまだしも、この程度の穢れを受けただけで、いきなり穢れ者に落ちるとは思えなかった。セインは、念のために札を取り出し、慎重に足を進めた。
『私が出ましょうか?』
もしも、穢れ者ならセインの手には負えない。というか、札を使っての通常の穢れ払いでは、ただ悪戯に傷つけるだけだ。逆に怒らせる可能性さえある。それに完全な穢れ者を、今のセインが対処できるかわからない。
「……いや、様子をみる」
だが、単独で行動しているときに、ゆらを憑依させるのは不安がある。前回、ちょっと無理をしたとはいえ、不覚にも意識を失ってしまったからだ。
「ん? 確かに穢れは感じるけど、これは……」
ロッゾのすぐ傍まで近寄り、しゃがみこんで確認したが、どうやら気を失っているだけのようだ。どちらかというと本人より、その手元から瘴気が溢れていた。
その手には、何の変哲もない木の破片。薄く加工され、ちょうどポケットに入るくらいのものだ。その先には、少し湿った土がついていた。
「何かを掘ったのか? いや、札を貼りに来たのに、なんで?」
この鉱山は、基本的には岩窟だった。硬い地層で、掘り進めるにはかなりの労力がかかり、採算が取れず、長らく放置されていた場所だったのだ。だが、住み着いた魔物が岩盤を砕きながら、岩窟を広げ、更なる掘削ポイントを見出したことで、商業鉱山となった場所だった。
「この辺りは、少し粘土質なんだな」
掘削によって切り取られた壁は、きれいに均してあるが、一か所だけ違和感があった。たぶん、注視しないと気が付かない程度のものだ。セインも、コウキがそのあたりでぴょんぴょん跳ねていたため気が付いた。
「ふぅん……なるほど。ということは、こやつは瘴気ではなく、コウキの浄火に当てられたわけか」
セインは、そこにあった物を指でつまんで、呆れたように口の端を釣り上げた。本人は無意識だったが、すでに呼び方は、ロッゾさんからこやつに格下げされていた。
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