3-15 コウキの出番2
「それじゃ、とりあえず全体の穢れや瘴気を祓いますので、少し下がってください」
危険はないが、術では炎を使うのでセインは皆を遠ざけた。
「あっ、待ってください。ロッゾさんが先行してますが、その浄火とやらは平気なんですか」
「大丈夫……と言いたいけど、もし万一にでもアンデットや穢れ者に落ちていたら、その限りではないかな。もっともその時は、どちらにせよ救出は困難なので同じことだけど」
あっさり答えるセインにボダンは息を呑んだ。ともかく「えらいことになった」ということだけは、理解したようだ。そしてもう一つ、ボダンの態度があからさまに先ほどとは違う。
セインに対して子供扱いだったが、いつの間にかハンターとして、いや、もしかしてそれ以上の対応になっている。ベンがセインを敬称をつけて呼んだことも、その判断に繋がったのかもしれないが、そういうところは商人は切り替えが早い。
「……ハンターギルドには、すでに部下を使って報告に行ってもらってます。ロッゾさんも心配ですが、処理できないと判断したら、迷わず引き返してください。もしセインさんに何かあったら……」
「言われるまでもなく、安全を優先する。だけど、穢れは多いが、一つ一つはそれほど大きなものではなさそうだ。地下に下りて、様子を見て無理だと思ったらすぐに引き返すから」
ボダンの心配もだが、なによりゆらが目を光らせている。とりあえず、初仕事で無茶はしないと約束してるセインとしては、慎重に事を運ぶと決めていた。
予想外のベンの登場で、いささか前のめりになってしまったが、どちらにしろ鉱山都市で下手な事故でも起きれば、兄のデオルにとっても不利益に他ならないのだ。
出来る範囲でなら、肉親としては協力したい。
「コウキ、よろしく頼む」
――ゆらも、協力してくれ。コウキの浄火が他に影響しないように、結界を。
コウキの浄火の炎は、通常の火と似て非なるものだが、普通に目に映るので周りから見ると大火事である。それを、ゆらの幻影で不可視の結界で覆う。
コウキのトリ胸が、息を思いっきり吸うことで大きく膨らんだ。
「ピィ――――――!」
口笛のような、いつもの鳥の鳴き声とは少し違う、つんざくような硬質な音に、その場にいたセイン以外全員が、慌てて耳をふさいだ。
ゆらの結界のせいで、外にいるボダン達にはわからなかったが、この時、鉱山内のすべての場所を、コウキの炎が一瞬にして満たされた。
「じゃあ、行ってきます」
簡易的な浄化を済ませたセインは、未だに訳も分からず耳を押さえている彼らに、軽く手をあげて鉱山へ入って行った。ボダンは「もう終わったのか」と呆然としているし、ベンはどこか怪訝な顔をしている。もしかしたらハッタリだろうと思っているのかもしれない。
サキは当初の予定通り、ここへ残しておくことにした。ボダンに預けておけば、とりあえず大丈夫だろう。
ちなみにベンは、居場所がなさそうにしていたが、問答無用で置いていく。
信用できない者と、未知なる場所へ一緒に行くのはごめん被りたかったからだ。それならいっそ、仕事は増えるが一人で行く方がよっぽどましだった。
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