2-15 暴走2
知らないふりをするつもりもなかったが、侯爵領でその子息となると、立ち位置は変わってくる。一般人として騒動の手助けをするのと、主導して解決しなくてはならない、という立場の違いは大きい。
それはともかく、セインは別のことで怒っていた。
「あの時、商人さんと一緒にいた人だね」
「はい! あの、それで……」
「待って、一つ聞いてもいいかな。あの子になにをしたの?」
泡を喰って助けを求める男の声に、セインは被せるように待ったをかけた。騒ぎを起こした張本人として、なんの責任も取らず、ただ助けを求められても困る。
「え……? あ、その」
「どうしてあの奴隷があんなことになったのか聞いてるんだ。あの時、治療の条件として護衛を雇えと忠告した。それを無視して、あの子を戦わせたのか?」
言外に自業自得だと非難した。
冷たく突き放されたと思った男は、意気消沈して座り込んだ。
「も、申し訳ありません。旦那さまが、どうしても無駄を省きたいと、せっかく元気になったのだから使わなくてどうすると……」
もう、呆れて物もいえなかった。
しかも商人本人は、全員で岩影まで避難した際、荷物を抱えすぎたため、途中で転倒してオークに捕まり殺されてしまったらしい。
ようするに、商人は無責任にも死んでしまったので、奴隷を止める術がない、というまったくもって笑えない状態だった。
どちらにしろ、セインが見る限りすでに「穢れ者」になりかけている。姿も変化して、意識があるかどうかも怪しい状態だ。
唯一の救いは、オーク以外に手を掛けていないことである。
「旦那様がおらず、自分にはどうすることも……もう、公子様の穢れ払いにお縋りするしか」
「……それは
セインの声には、明確に責めるような響きがあった。
穢れそのものになった存在に、穢れ払いをするという行為はすなわち攻撃と変わらない。それは、穢れであるオニの消滅を意味する。
思わず息を呑んだ男は、それでも意を決したように口を開いた。
「と、特定の人物に手を出せば、あの奴隷には死の制裁が下ります……だから」
当然だが、この男も特定の人物に入っているのだろう。
どちらにしても奴隷は死ぬのだと、そう言いたかったのだろうが、同時にそれは暴走を止める方法があることを意図せず暴露した形になった。
この男が自ら身を捧げれば穢れ者の暴走は止まるのだ、その制裁によって。
護衛の二人が顔を見合わせ、御者や乗客もそれに気が付いた。
変な沈黙と視線を感じて、話した本人もそのことに気が付いて「あっ、いや違う! そうじゃなくて」と、気を失わんばかりに真っ青になって、今更なかったことにしようとした。
もちろん、遅いけれど。
――もう本当に、いい加減にしてほしい。
じゃあ生贄になってね、と言えたらどんなに楽だろうと、セインは頭を抱えた。
アレがこっちにでも向かってこようものなら、ここにいる全員を押さえ込むことはできないし、パニックになれば誰か一人はそう考えても無理はないのだ。
――まだ人を殺してないなら、理性が残っている可能性がある。それなら……
ほんの僅か、一縷の望みにセインはかけてみることにした。
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いつもお読みくださりありがとうございます。
これまでサブタイを数字にしてきましたが、少し不便に感じたので、文字のサブタイを追加することにしました。これまでのお話もさかのぼって文字のサブタイを足していきます。
これからも、どうぞよろしくお願いします!
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