2-5 ハンター3

「わかっています。ロルシー家では、基本的に札づくりから入って、上の者について体験実務をこなし、ハンターギルドや診療所などで穢れ払いの補助やボランティアで経験を積み、それからハンター資格が必要なら取得するという流れですよね」


 パーティの一員として同行するためのハンター資格、もちろん主に後方支援なわけだが、それでも多かれ少なかれ危険は伴うのだ。そのため、少なくとも自分の身を守れるだけの体力が要求される。

 よって、本当の意味で穢れ払いとして同伴する人材はかなり有能といえた。

 

「……ああ、そうだな」


 侯爵が言葉を濁したのは、実のところ上位ハンターのパーティに派遣できるほど有能な者は、そんなに大勢いるわけではない。先ほどセインが言ったのは、ごく一部の優れたものがたどるルートである。

 基本的には、ギルドに赴き、札を作ったり、帰還したハンターの穢れを祓ったり、が主な仕事である。

 ハンター資格を取ったからといって、必ずしも魔物ひしめく鉱山に行く業務ではないのだ。


「家庭教師を断わり、勝手に別館に住んで、また、こんなお願いをするのは心苦しいのですが、でも」

「ああ、まあ待て。反対しているわけではない」


 ハンターになること云々ではなく、セインが未開の鉱山に潜るつもりなのを咎めているのだ。


「先ほど、まだ自分は半人前だと言ったな。ハンターという仕事がどれほど危険かわかっているか?」

「もちろんわかって……いえ、すみません。鉱山に入ったこともない僕が、そんなことを言う資格はないですが、ですが今、これは必要なことで……」


 勢いよく答えかけて、考えてみたら理由を話してなかったと気が付いた。

 先日いろいろ考えてたどり着いた結論を、セインはかいつまんで侯爵に話して聞かせた。もちろん、余計な情報は抜きで、あの「ひよこ」のように、うまくすればもっと式を手に入れられるのだと。


「なるほど、自分の手で形代とやらを、な」


 侯爵が「うむ」と納得したように頷いた。なにしろ、彼自身が自分で手に入れたものにこそ価値がある、と信じているような堅物だ。これは琴線に触れたに違いない。


「……それなら今回は、依頼でよいのではないか?」

「え? 依頼、ですか」


 ――あれ? なんか意外な答えだな。


「勘違いするな、採掘依頼ではないぞ。護衛の依頼だ。要人が採掘や調査をする際の護衛も、ある意味ハンターの仕事だ。わしが依頼料を出してもいいが、もし気に入らなければ、ハンターとして下っ端仕事をして日銭を稼ぐのも手だ。お前は札を書けるようだし……実際に、早々に家を出て、そういう修業をした者もいるからな」


 ――へえ、結構アクティブな人もいたんだな。って、なんかこの人ニヨニヨしてる。ということは、……たぶん間違いない、自分のことだ。


 ガチガチにしきたりを尊重している本人は、若い頃は結構な自由人だったようだ。いろいろ厳しいことを言うが、それを飛び越えていくことを、あえて止める気はないということだろうか? もちろん、それに伴う苦労は勝手にしろってことかもしれないけれど。


「向上心結構、新しいものに挑戦するのも好きにすればいい。ただ、無謀とそれを違えてはならん。慎重さは臆病ではないぞ。何事も成功させたくば、回り道も必要だということだ」

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