1-8 セインの能力
ろくに家具のない別館には戻らず、セインは庭園の東屋に向かった。この時間なら、ここに誰もいないだろうということは知っていた。なにしろ肌を刺すほどの寒い時期であり、しかもこんな朝早く、わざわざ庭園くんだりまで来てティータイムでもないからだ。
「さむ……、だが料理に湯気とは」
五臓六腑にしみわたるような温かいスープ。
金属製のスプーンを持つ手がかじかんだが、それでも久しぶりにお腹にたまる食事だった。ゆっくりと手を合わせて食事を終える。
セインは、そのまま庭園をぶらぶらと散策した。
二年くらい前までは、セインにも専属の家庭教師がいた。何しろ母親が強い能力者だったので、多少は期待されていたのだ。それが、あの部屋に移った頃からたまに八男に呼び出されるくらいで、正式な術指導も、勉強もさせてもらえなくなった。
屋敷の裏手に回り、しばらく歩くと複数の果実が成った木々が立ち並ぶ場所についた。侯爵家の敷地内にあるそれほど大きくない果実園だ。
真っ赤な大人のこぶしくらいの大きさの実がたわわと成っている。
「背伸びしたくらいでは届きそうにないな」
屋敷分を賄う小さな果樹園があるのは知っていたので、ひとつふたつ貰っていこうと思ったセインだったが、見上げるソレを取ることができなかった。
「ゆすったくらいでは無理か……」
かつてなら、スイッと術で身体を浮かせることもできたが、それもかなわない。
見上げると、赤い実を覆うように茂る緑の隙間から、明るい日差しが零れてきた。先ほどまでの凍えるような寒さは緩み、日差しが少しだけ温かい。
セインは幹に背を預け、ゆっくりと目を瞑った。
無能だなんだと言われているが、セインに能力……いわゆる妖力の源はちゃんと存在した。
もともと近い能力を操っていたことから、それを手に取るように感じていた。だからこそ、それらが身体を巡る前に押さえ込まれるように消滅していることもわかっていた。
考えているとおりなら、その原因も、また解決法もおおよそ予想がつく。ただ、わかっていても今のセインにはどうしようもない、ということなのだ。
セインの根源たる魂に、式である妖が封印されている、その事実を。
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