1-6 食事
日が暮れてくると、セインの部屋に食事が運ばれてきた。
ロルシー家でも、もちろん家族で食卓は囲んでいる。けれど、それは父親に認められた者だけで、その席には先ほど大きな顔をしていたイゼルの席もない。
その席に呼ばれたことのないセインが詳しく知る由もないが、基本的にはこの家の主人である侯爵と、正夫人、選ばれた数人の子供たちのみが、唯一家族の食卓に呼ばれる。
ちなみに、ロルシー侯爵には、正夫人のほかに数人の妾がいる。そのため兄弟のほとんどが母親が違う。今の正夫人の子供は、長女のフロンと、次男のデオル、五男のウーセである。
銀色の被毛をもつフロンは、正夫人の自慢の娘だ。
セインの上には、フロンも含めて姉二人と、兄が八人。まだ灰色の産毛の、乳飲み子の妹が一人。
長男と次男は、それぞれ領地を任されているので普段は家にいない。姉二人と、唯一男子の中で銀に近い白金色の被毛を持つ六男は、大きな祭事の度に帝国本国へ出向したりするが、基本的には小さな教会や、病院などをまわって奉仕活動などをしている。いずれも帝国から俸禄が出るので、立派な仕事であり、帝国に恩をうる大切な役割でもある。
家族のこととはいえ、普段からとくに接触のないセインが知っていることはこれくらいだった。
食事を持ってきたのは、もちろんベン。
面倒くさそうに、お盆を出窓の隙間に置く。
この部屋に机はないし、唯一の椅子はセインが座っているので仕方がない。いつもなら、食事を乗せるため自ら席を立つセインが、ただじっと目を瞑って座ったままなのが、些か気に入らない様子である。
「……いつも通り、済んだら食堂へ返してくださいね」
これで今日の仕事が終わったとばかりに、ベンは投げやりな口調でそういって部屋を出て行った。
驚いたことに、食器の片づけを主人であるセインにやらせているのだ。
セインは片目を開けて、窓際に置かれた食事を見る。
見るからに薄そうなスープに、半分に欠けたパンが一つ。
「どうりで、痩せこけてるはずだ」
成長期にこんな食事では、骨も筋肉も正常に育たない。どうやら能力が云々前に、この食事を何とかしなくてはならないようだ。
息子の食事に対して特に意図がないなら、侯爵がわざわざそんな指示をするとも思えない。むしろまったく関心を向けてないので、逆にこれは使用人が勝手にやっていることだとわかる。
――まったく舐められたものだ。
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