イニティウム

森前りお

第1話

たまたまそこを通りかかって、たまたまそこにその人は居て、俺はその人にコンビニで買ってきた三割引きの食パンを一枚あげただけだった。


 「あなたは私の恩人!ということで私はあなたのしたいことを何でも叶えてあげます」

 「ああ、そうなんだ」


 東京にはやっぱ頭のおかしな奴がごろごろいるんだと思った。

 婆ちゃんには困っている人は助けてあげなさいと言われたが、おかしな奴を助けてもおかしなことしか言わない。

 そんな「何でも叶えてあげます!」なんて何でも出来るわけない。


 「じゃあ、金出せ」


 カツアゲだ。

 俺は貧乏だ。バイトも掛け持ちして毎日疲れ切ってる。少しぐらい金を貰ってもいいんじゃねえかと思う。


 「ああ、それは無理ですね」

 「じゃあ、どんなことができんだよ」

 「例えば」


 ごくりと俺は唾を飲む。


 「人を殺すとか」


 こんなこと言っちゃうのは悪いけど、それは多分誰でも出来ることだと思う。やろうと思えばできる。


 「でも、お前、捕まるぞ」

 「捕まりませんよ」


 至極真面目な顔で彼は言う。俺は何を言っているんだと思う。それはこの日本に住んでいる人達にとってはやってはいけないことで、他の国でも同じだ。それをすると必ず捕まる。自由が奪われる。だから、皆しないし出来ない。

 「じゃあ、見せましょうか」


 彼はきょろきょろと周りを見て、人を見つけると口角を上げて通りかかったサラリーマンに向かって手で銃の形を作った。


 「ばーん」


 そう言うとサラリーマンの頭と体が別れ、辺りに血が飛び散った。


 「は?」


 頭の思考が追い付かなかった。

 今、コイツがばーんって言って、そしたらアイツの頭が飛んで……血が。


 「あ」


 俺はサラリーマンに向かって走って行った。


 「きゃああああ!」


 女子高校生が叫ぶ。


 「ああ、俺じゃないんです。助けてください。あの、救急車、呼んでください」


 まるで俺がやってしまったかのように女子高校生にとっては感じるだろう。それでも、なんだか自分がやってしまったかのように感じたのだ。あの男と関わってしまった責任というか、俺がアイツを助けたせいでこうなってしまったんじゃないかと。

 女子高校生は腰を抜かしてその光景を見ているだけで何もしなかった。

 ここは元々人があまり通らない道だから他には全然人が来ない。

 俺は自分で119に電話しようと肩掛けバッグの中から小刻みに震えた手でスマホを取ろうとする。

 画面ロックを解除して、電話のマークを押す。

 119。その番号を入れて後は電話するだけだ。

 その押す瞬間、彼女は俺に声をかけた。


 「自首する気?」

 「え」


 鼻水が鼻から垂れてみすぼらしい姿になっていることだろう。


 「それ、君がやったようなものじゃん」

 「違うって!」


 思わず大きい声が出る。

 俺は周りを見て誰も居ないことを確認する。


 「そうやって、確認するってことは何かやましいことがあるってことなんだよ」


 全部、全部彼がやったことなのに。この男は全部俺がやったことにしようとしているのだろうか。

 でも――。


 「これは人間が出来るようなことじゃない」


 破裂したように分離した体と頭は銃でそうなるものじゃないし、それならもっと多くの人がその音で集まってくるはずだ。

 だから――。


 「これは俺には出来ない。だから、警察も信じてくれるはずだ」

 「じゃあ、僕の事、警察に報告すればいいんじゃん。てか、救急車呼ぼうとしているところ、悪いんだけどさ、コイツ、もう死んでるよ」


 手の脈を測ろうと、その人の手を握る。そして測り方も分からないまま、二本指を手の付け根に当てる。

 何も感じない。


 「あ」


 死んでいる。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


完結出来なかったらすみませんm(_ _ )m

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