開戦
魔王城への道中はおよそ平和であった。
そもそも龍族を恐れてほとんどのモンスターは襲って来ず。
しかも龍族を打ち負かしたものが居るのだから襲われても問題など無かった。
差し当たって一番の問題となったのは……
食料だった。
────────
「お、来た来た」
「あんたねー、んな呑気に見るもんでも無いでしょう」
「いいだろ別に、どうせこれでやられるんならその程度だったってだけさ」
口々に眼下に広がる光景を見て言う神獣達は、雲と同じほどの高さを保っていた。
視線の先には立派な城と、その城へと向かっているであろう土煙を上げながら進む大軍があった。
*
火災の後始末を終え、そろそろ帰るか。と思っていた時に魔王様からの文が届きました。
なにやら魔王城へ急いで来てくれとの旨が書かれていましたが、そんなに切羽詰まったことが?
その手紙を懐にしまい、ミヤさんに帰宅する事を伝えてなるだけ早く人目の付かぬ所へ。
すぐに羽を出して出せる限りのスピードで魔王城へ。
一体、何があったというのか。焦るあまりに私は自分を追うものが居た事に気が付くことが出来なかった。
*
魔王城の城壁の上から見ていた魔王は、自分の予想とは違うこちらへ向かって来る客に思わず動揺した。
なんと、モンスターと人間が手を取り合ってこちらへ飛んでくるではないか。
「魔王様、ご機嫌麗しゅう。此度は魔王様に、宣戦布告をしに参りましたわ」
空中で優雅に頭を下げて、そう言い放ったリリスは、続けてこうも言った。
「今までのモンスターを無下に扱い続けた事、後悔させてあげましてよ!」
「と言うわけで、僕たち本気だから。覚悟しといてね」
リリスと一緒にきた吟遊詩人もリリスの後に続いて、言うだけ言って魔王から距離を取る。
すぐに見えてきたのはモンスターの大軍であった。
A~Eランク、様々な種族のモンスター達が、皆一様に魔王城へ向けて進軍していた。
「すぐに片付けます」
そういう側近に、
「まぁ待て。わざわざこちらが出て行く必要も無いだろう。籠城の方が楽だ。……しかし城を壊されるとなるとやっかいだな。文を飛ばすとしよう」
と返してカラスを5羽ほど出して空へと放す。
「久しぶりというか、魔王になってから初めてだな。攻められる、というのは。あぁ、楽しそうだ」
武者震いをしてそう呟く傀儡の中の魔王を見ながら、側近は一人戦闘態勢へと入った。
*
リリスと背中を合わせて、大軍の中央で浮き続ける吟遊詩人は、持っている楽器を鳴らしながら、モンスターへと歌う。
モンスターを魅了出来なかったリリスは、吟遊詩人の魅了を盗み。吟遊詩人はリリスの魅了を受け続け、共に一つの能力に特化した固有転醒を遂げ、さらに能力を尖らせた。
人間もモンスターも問わずに魅了出来る様になったリリスが軍として進撃させ、魅了状態のモンスターへ今の様にバフをかけまくり、実力を底上げした物量で魔王を押しつぶそうと、リリスは試みる。
そんなリリスへ、魔王の声が届く。
「モンスターの扱いに対する不満を、他のモンスターを魅了しているお前が言うか」
「今まで扱いが不遇だったモンスターとして言わせていただきますわ! 今、あなたさえ倒せば、今後ずっと不憫な扱いをしないと約束し、彼らを従えていますもの!」
何も知らぬくせに、と魔王は内心で呟く。
側近が地上に降りて大軍を迎え撃とうとしているようだが、どう考えても多勢に無勢。
いかに側近がSランクのマスター達程の実力であろうとである。
そしてその大群の先鋒を務めているのは、魔王は知らなかったが、あのマデラさえ手を焼いた超回復するトロール達であった。話だけ聞いていたリリスが魅了魔法によって強制させ、数十体を転醒させていた。
手を伸ばし、魔王の象徴である闇を放てば、リリスから飛んできた魔法により闇が打ち消される。
「……ほう。そこまで魔法は強くなかったと記憶していたが? ……そうか。バフか」
「お互いがお互いにかけていますもの。これで、少しは楽しめますでしょう?」
全てを飲み込む闇であったが、打ち消しなどされるのは初体験であるし、何より今にも側近が大軍に飲み込まれそうであった為に仕方なく側近の傍へと降りる。
「魔王様?」
「伏せろ」
何か聞きたかったらしいが有無を言わさず伏せさせて、手を伸ばして体を一回転。
手からただの衝撃波を放って進軍を止めて、側近の襟首をつかんで城壁の上へと戻る。
「数が多すぎるな、援軍待ちか」
「魔王様、私は大丈夫ですので降りて戦闘を……」
「アホか。戦いは数。これだけは覆らぬ。しかもこちらは我と貴様のみだぞ。城内のモンスターなど皆向こうへ魅了された。これ以上こちらの戦力は減らせぬ」
門を開け、リリスたちの元へと移動するガーゴイルやリッチ達。少なくともAランクのモンスター達ですらリリス達の味方となっている。
「万事休す、まではいかぬが、なかなかに厳しい状況よな。心が躍る」
心底楽しそうに言う魔王の視界に、赤い影が入ってくる。
「まずは援軍その一か。その姿は懐かしいな。マデラ……いや紅宝龍よ」
大軍の中心へ紅蓮のブレスを放ち、魔王の近くへと来た龍は、
(お待たせいたしました。何か緊急のご用事で?)
と念話でとぼけて見せた。
「そんな会話も懐かしい。見ての通り、我を退治しようと謀反を起こしたらしい。……側近と力でも合わせて追い払え」
「嫌です」「拒否します」
「うむ、であろうな。ま、やられることが無い程度に力を振るえ。どうせまだまだ向こうも手を隠しているだろう。全部手札を切らせて来い」
「かしこまりました」「御意に」
2人だからと止めた魔王は、マデラが来た途端に2人で行ってこいと送り出す。
どれほどまでにマデラを信頼し、評価しているのか。
側近は唇を噛みながらも、隣を飛ぶ
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