ハプニング
彼が教えたのは精霊魔法と呼ばれるものだった。
精霊に語りかけ、頼み込み、精霊たちの力を具現化して貰うという魔法。
初めの内は皆して出来なかったが、段々と慣れて来たのか何人かは魔法を放つ事に成功する。
個人差があり、全く出来ない者も居れば、驚くほどの魔法を扱える者も居た。
魔法が浸透したころ、彼は一つの対価を要求した。
人間のような魔力の薄い血は要らない。魔力の濃い血が欲しい。と。
それは、今の人間にとっては無理難題であった。
────────
まさか本当に暗くなる前にダンジョンの修復が終わるとは。
少しドワーフ達を見くびっていたのかもしれません。
「ほいよ。ざっとこんなもんさ」
「ありがとうございます。助かりました」
私がドワーフ達に頭を下げれば、後ろのダンジョンの
掘り出したゴブリンリーダー達は、無事なゴブリンリーダーによって地水空に運ばれましたし、この分ならダンジョンの閉鎖はしなくても平気ですね。
ギルドへ帰る前に罠の数を制限する旨だけ伝え、濡れた髪と服が不快なので早く拭きたいですね。などと考えながら、私はギルドに戻るのだった。
*
「おかえりなさいなのです。タオルなのです」
ギルドに戻るとすぐにツヅラオがタオルを持って来てくれた。
髪を拭き、少しだけ人体発火を起こして服を乾かす。
「ありがとうございます、ツヅラオ。……どうなさいました?」
「きゅ、急に燃えたら誰だってびっくりすると思うのです!」
周りを見てください。もう皆さん慣れたとでもいうように無関心ですよ?
「私が居ない間に何かありましたか?」
「いえ、特に何も無いのです。やる事が無くてお掃除も終わってしまったのです」
「ではこれから書類を作成しますので手伝いをお願いします。書類は私が書くので、ツヅラオはこのダンジョンのマップを写していただけますか?」
「了解なのです!」
…………今日分かった事は、ツヅラオは絵どころか地図すら書けないという事でした。
写すだけのはずなのにどうして蛇のような、ミミズのような地図が出来上がるのでしょうか?
書類作成の仕事を入れ替えて、ツヅラオにダンジョンを修復した事と、内部が変わった事を知らせる書類を任せ、私が地図を。
ツヅラオが目を輝かせながら私が地図を写すところを見ていますが、別に普通ですからね?
道幅や長さも本来なら重要ですが、あまり正確に書きすぎるとマッパーの方々に怒られます。
正確な地図を元に大雑把に書いて……ツヅラオのミミズ地図も一緒に配っておきましょうか。
書類を書き終えれば時刻は定時前10分。
素晴らしい時間ですね。出来上がった書類は各村や町に配布されるように手続きをして、私とツヅラオは定時にギルドを後にするのであった。
*
家に帰った私を待っていたのは……パパラ?
扉の前で膝を抱いて
「パパラ? どうかしたのですか?」
「お、お姉さま。リリス様が、リリス様が……」
「リリスがどうかしたのですか?」
「と、……殿方と。……殿方と駆け落ちしてしまいましたわぁ!」
その言葉を聞いた時に、私の思考が音を立てて停止したのを知るのは、いまだ振り続ける雨のみだった。
*
とりあえずパパラを部屋に入れ、紅茶を飲ませて落ち着かせる。
「詳しい経緯をお願いします」
「えっと、先日、変態をダンジョンに連れて帰って来たんですけれど」
恐らくあの変態吟遊詩人の事でしょうね。
「それからというもの、一緒の部屋に入ったっきり出て来なくなられて……」
リリスが男性と部屋に入ってやることなど一つだと思いますけど。
「過去に何度かあった時には長くても丸1日だったのですが」
それ男性は死んでませんよね?
「今日で3日目になるので流石に変だと思い、中を開けてみたら」
「もぬけの
「はい」
確かに変ですね。……今まで真面目にそれこそ他のSランクのマスターの誰よりも真面目に連絡や報告をしてきていたリリスが私に何も伝えずにダンジョンから消えるなどとは。
ましてや同じダンジョンの配下であるパパラにすら告げていないとなると……。
ちょっと前代未聞の事で考えがまとまりませんが……さしあたって早急に必要なのは代わりのダンジョンマスターです。
ハーピィのダンジョンに挑戦者が現れたという報告も上がってきていますし、もしかするとリリスのダンジョンへ挑戦しようとする冒険者が出てくるかもしれません。
そうなったときにマスター不在などとあれば即クレーム案件です。
Sランクを任せられる強さで、知能があって、今すぐにでも配属できそうなモンスターなど、魔王様の側近位しか思いつきませんが、とりあえず魔王様に相談しましょう。
「パパラ、ダンジョン内の他のサキュバスに、どんな事でもいいので普段とリリスが違った事を聞いて、ダンジョン付近を捜索するように言ってください。私は仮のマスターを何とか出来ないか魔王様に相談してきますので」
「わ、分かりました。……リリス様を見つけた場合は?」
「逃げられても面倒なので、何が何でも捕まえてください」
わかりましたわ、と頷いたパパラは言われた通りにダンジョンへと戻る。
私も、魔王様へ代わりのマスターを何とかしてもらうべく、本当に側近位しか思い浮かばないとはいえ、下手すると魔王様が魔操傀儡に入ってでもやる。と言いかねないので、どうやって魔王様を思い留まらせようか、と思案しながら魔王城へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます