答え合わせ
フラフラと、4匹の蝙蝠がまとまって夜の闇を縫うように飛ぶ。
木の陰に降りた4匹の蝙蝠は集まり、一人の少年の姿に変化する。
至る所がボロボロで、肩で荒く呼吸をするその少年は、そのまま木の陰で倒れ込むように眠った。
朝になっても一向に目を覚まさない彼に、近づいてくる影が一つ。
────────
仕事を終えて二人を連れて魔王城へ。
ツヅラオは分かるのですがリリスは自分で飛んでいただけませんかね。
魔法で飛べるでしょうに。
がっちりと両腕にしがみ付いている二人を落とさぬよう速度を調節し、初めての自分の用事が無いまま向かうことになりました。
っと、右腕にしがみ付いているツヅラオが震えていますが大丈夫ですか?
一度魔王城の目前に着陸し、確認しておきましょう。
「ツヅラオ、震えていますが大丈夫ですか?」
「あぅ……こ、怖いのです。む、む、無意識に、……体が震えるのです」
自身の両肩を抱いて、その場に座り込んでしまうツヅラオ。
リリスもリリスで、少し身構えているような。
「い、威圧感……といいますの? これが、魔王様から発せられているのでしょうか?」
この辺りでも魔王様の威圧感が届いているのですか。
何度となくここに足を運んでいるので慣れているのでしょうか、私には特に感じませんが。
ツヅラオに動けますか? と聞いても首を横に振るだけ。
仕方ありません。
「リリス、ラストダンジョン前のこの場所にツヅラオを置いていけません。あなただけで魔王様に会って頂けますか?」
「えぇ、そうですわね。案内助かりましてよ……」
やっぱり声は震え、警戒はしているが意を決して魔王城へ進むリリス。
彼女は一体、何の目的で……そういえばツヅラオの目的も聞いていませんでした。
「ツヅラオ、魔王城へ来たがっていた理由をお聞かせ願えますか?」
「ぼ、僕、狐火が出せるようになったのです。そ、それで、モンスターの補充依頼も魔王様に出せるようになりたくて、かか……神楽様にやり方を教えてもらったのですが、魔王様の所へ行けば出来る様になると……」
なるほど、狐火を出せるようになったのも姉御が教えたから、ですか。
始めは出せないと落ち込んでいたのに、成長は早いものです。
魔王様の元へはいけませんが魔王様を感知は出来るでしょう。
「ツヅラオ、この威圧感の元を辿って、発している存在を感知出来ますか?」
未だに震えながら、固く目を瞑り……ゆっくりうなづいた。
「その存在を意識すればここに届くはずですよ」
「はい、なのです……マデ姉、か、か、帰りましょうなのです」
私の腕ではなく、正面から震えてしがみ付いてくる可愛い存在を抱きしめて私は羽ばたき、魔王城の目の前から帰路につく。
リリスは……まぁ大丈夫でしょう。曲がりなりにもSランクのマスターですし。
*
「珍しいお客さんやな。どないしたん?」
だらけて煙管を片手にお茶を飲んでいた神楽は、自分のダンジョンに入って来たそのお客に声をかける。
「魔王様に話を聞きに行きましたの。そうしたら、貴女に聞け。と言われましたわ」
建物の入り口に立つのはリリス。
同じSランクのマスターだが、自分のダンジョンを抜けて神楽のダンジョンに行くのはいかがなものか。
もっとも、ダンジョンに居たところで挑戦者は来ないであろうが。
しかし、そんな事など承知の神楽は早速来た理由を尋ねた。
「ほんで? 何を聞きたいんや?」
「魔王様が、魔王様になるまでの経緯をお聞きしたいですわ」
「ま、せやろな。あん人がうちに説明させるのなんざそれしかないわ」
知ってた、と言わんばかりの返答をし、体を起こす。
手を伸ばして、どこからともなく一冊の本をリリスに投げて寄越す。
それは子供向けの童話。そして冒険者の学校で一番初めに教わる物語。
モンスターが居て、魔王が居て、勇者が仲間と共に魔王を倒すという話。
「それの中に全部のっとるで」
「それを説明して欲しいと申しておりますの!」
リリスだってもちろんこの童話は読んでいる。しかし、どうしても自分の納得のいく答えにたどり着けなかった。
だから、だからこそ。
魔王本人に確認に行く、といった行動を取ったのだ。
「そう怒鳴らんと、落ち着き。……はぁ。どこから話すん?」
「初めから、ですわ」
あいよ、と。まるで観念したというよりは、とうとう来たか、というような一種の諦め。
「はぁ、まずはわるいモンスターな。今みたいにダンジョンで管理されとらんかったからチビッ子達を襲ったりしとった」
流石にそれは予想できた。リリスは頷く。
「ほんで、そのモンスターは魔王に従っとった。というよりは魔王の威を借りとっただけやな」
それもまぁ、納得は出来る。管理すらしないモンスター達を統制するなどしないであろうから。
「まぁただし、書いてある通り魔王は”人”やけどな」
「なっ!?」
思わず確認してしまう発言。
『そのモンスターはまおうという、とってもわるいひとにしたがっていました』
何度も読んだはずなのに、見落としていた……いや、気にすらしなかった。
「最初の魔王がどうやったかは分からへん。けど、あん時の魔王は確かに元人間やったで。正確に言えば魔王に固有転醒した人間やけどな」
また初耳だ。そもそも、人間が転醒するなんて話、聞いたことすら無い。
そして神楽の口振りからするとやはり、当時を知るモンスターという事か。
「この女神から特別な力を授かったという勇者に関しては?」
「それもそのまんま、人間とは思えんほどの能力を持っとったで?」
「その口振りですとやはり貴女は……」
先程出した結論を神楽に突きつけようとするも、神楽はただ手をひらひらと振って否定する。
「覚えてへんで。うち、九尾になる時に転醒したからな。ただ、記憶を見た事があるだけよ」
一体誰の記憶か、なんて疑問はすぐに自己解決する。決まっている。当事者しかいるまい。魔王様の記憶、なのだろう。
「次に続きやけど、何処やと思う? この物語に、言うなれば隠されている真実っちゅうんは」
「え? 魔王を倒してからどうなったか、ではありませんの?」
「その前にもう一つだけあるで。仲間の事やな」
仲間? 旅の途中であった大事な仲間が何か?
「これは書き方が悪いから気付かへんでもしゃーないわ。人間なんて書かれとらんなんて、普通は考えへん」
背筋に悪寒が。つまり仲間は人間ではなく……。
「うちとマデラ、ほんで吸血鬼が勇者の仲間として一緒に魔王に戦い挑んだみたいやで?」
そういう事ですわよね……。
「ってドラさんもですの!?」
「そや?色々と変な因果があるもんよ」
自分の考えが及ばぬ事を知らされ、思わずその場にへたり込んだリリス。
それをみた神楽は、
「お茶、入れよか。紅茶がええか?」
と休憩としてリリスに紅茶を差し出すのだった。
ツヅラオお手製のリンゴのジャムを添えて。
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